宿屋(読み)やどや

精選版 日本国語大辞典 「宿屋」の意味・読み・例文・類語

やど‐や【宿屋】

〘名〙
① 泊まっている家。宿泊所。
※今昔(1120頃か)二五「歩兵等、楯の外の宿屋を焼く」
② 旅客を宿泊させて営業する家。旅館。はたごや。
※雑俳・花笠(1705)「とめてをく宿屋の帳の国づくし」
遊郭で、置屋から遊女を呼び寄せて遊興する家。揚屋(あげや)。〔評判記色道大鏡(1678)〕

しゅく‐や【宿屋】

〘名〙 瓦ぶきまたは板ぶき屋根の家のことを越前地方でいう。駅路の家だけが美観や防火のためにそうしていたのでこの名がある。

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デジタル大辞泉 「宿屋」の意味・読み・例文・類語

やど‐や【宿屋】

旅客を宿泊させることを業とする家。旅館。
泊まっている家。
「―の中門に走り上りて」〈太平記・三八〉
揚屋あげや
「―はどれへおこしなされますといふが」〈浮・一代女・二〉
[類語](1宿旅館ホテル民宿ペンション木賃宿旅籠モーテルラブホテル連れ込み連れ込み宿

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改訂新版 世界大百科事典 「宿屋」の意味・わかりやすい解説

宿屋 (やどや)

〈宿屋〉は単に宿泊所をさす場合もあったが,一般には旅人を宿泊させることを営業目的とする施設をいい,現在日本では旅館とほぼ同義語である。古代には駅伝制の施行で日本にも公用の宿泊施設として駅家(うまや)が設けられたが,これは営業を目的とするものではなかった。宿屋の発生は平安時代にさかのぼると思われるが,交通網の発達とともに私的営業の宿泊施設が全国的に整備されていくのは,近世にいたってからである。江戸時代には武家・貴族など貴人用の本陣脇本陣,一般庶民用の旅籠(はたご)があり,これらは本陣を除いて賄付き(まかないつき)であったが,いっぽう賄いが付かず宿泊人が自炊する木賃宿(きちんやど)があった。

 これら宿屋の建物は地方や時代,規模の大小によって形式は異なるが,建築としては住宅のうち町家の一種に分類される。江戸時代後期以後の中規模以上の旅籠は二階建てで,一階を帳場,調理場,家族の居室などとし,二階を客室として数部屋を設けた。客は相部屋(あいべや)が普通であった。二階に客室があるため,階段が発達した。木賃宿は小規模な町家と同形式で,通り庭(土間)に接する部屋にいろりを切り,ここで煮炊きをし,客はざこ寝の相宿であった。木賃宿は江戸初期に多くみられ,宿場町のはずれに配されていたが,しだいに旅籠にとってかわられた。

 なお日本の宿屋については〈旅籠〉〈旅館〉の項も参照されたい。
執筆者: 以下で日本の宿屋にほぼ該当する中国,欧米の施設を歴史的に記述する。なお中東の隊商宿については〈キャラバン・サライ〉,近代に誕生した〈ホテル〉〈モーテル〉〈民宿〉なども関連する項目として立項した。
執筆者:

中国においては,旅行に際して原則として官製の交通施設を利用することができるのは,官吏もしくは官許の資格をもつものに限られ,一般人の旅行のための宿泊施設は別に発達した。春秋時代から,逆旅と呼ばれる(逆は迎える意味)宿屋が,各国の交通路の要地に私人によって営まれ,兼ねて路用の飲料などを販売していた。秦の商鞅(しようおう)の法にみられるように,私人の旅行においても官の許可が必要であったが,逆旅においては報酬の多寡に応じて黙認されることもあった。ただしこれらの施設では宿泊のみが可能で,食事の提供などはなく,旅客は自炊しながら旅をした。全国が統一された秦・漢代には,主要な交通路には亭(てい)や伝舎という官設の宿舎が設けられ,ときには一般人の宿泊も許されたが,亭は単なる宿泊施設ではなく,地方行政・治安の中心であり,亭長には地方の有力者が当てられた。漢の高祖劉邦も,元来この亭長の職にあった。

 一方,私人の逆旅も増加し,三国南北朝の混乱期に官設の施設が衰退していくとともに,食事を提供するなど便宜性を増し,旅宿の主流となっていった。晋の潘岳の〈上客舎議〉には,この間の両者の相克する事情が述べられている。唐代には律令制度にもとづいて再び全国的に統一した交通施設がつくられたが,私設の旅宿も発達し,主要な都市や観光地には,旅舎が酒食を供しながら軒を並べ,宿集落を形成するまでに至った。また長安,揚州,広州などの大都市には,外国商人の経営する宿屋も現れた。宋以降は商業・都市の発達,旅の多様化に従って,各地の宿もいっそう増加拡大し,都市の商業の重要な一部門となった。清末ころには宿屋も多様化し,単なる寝床のみを提供する〈客桟(きやくさん)〉から,客室や寝具も提供する〈旅館〉や最高級の〈飯店〉が大都市に林立するようになった。また同郷者でつくられる会館も,都市に往来する地方人の宿所として重要な機能を果たした。
執筆者:

宿屋をさす言葉には,英語ではホステルhostel,ホスピタルhospital,インinnなどが中世においては一般的で,このうちインは1400年ころから1800年ころまで盛んに用いられた。ホテルhotelという英語はフランス語からの借用語で,普及するのは18世紀以降である。ホステルの語源はラテン語hospitale(〈病院〉の意),ホスピタルの語源はラテン語hospitium(〈見知らぬ人を迎える場所〉の意)で,ともに〈もてなし〉を意味するラテン語hospitalitasと関係があり,宿屋の機能を示唆する。また,インは前置詞inと関係があり,かつては〈住居〉の意があった。ホテル出現以前の,あるいは鉄道の出現で旅の形態が一変する以前の宿屋は,単なる旅宿以上の機能をもっていたことが多い。

 すでにギリシア・ローマ時代から宿屋はみとめられ,ローマ時代には帝国内にはりめぐらされた街道沿いにmansionesと呼ばれる宿屋が設けられた。これは駅伝制の発達に伴うもので,おもに役人などの公用者向けであった。中世になると,宿屋は村や都市の生活の中心としてその重要性を増す。ドイツの村の場合をみると,宿屋の多くは村の中心に位置し,建物は農家よりもかなり大きかった。他国者が宿泊した場合には,主人は村長に報告する義務を負った。宿屋はまた,ビールの醸造権を付与され居酒屋を兼ねていたから,村人にとっては憩いや集いの場であり,結婚披露宴などもここで催された。宿屋の主人は村で最も富裕な階層に属していた。一方,キリスト教の浸透に伴い,慈善の観念が確立し,修道院は旅人や巡礼者用の宿泊施設を設けた。これらは施療院と呼ばれ,貧民への喜捨や病人の世話なども行った。
執筆者: 11世紀以降活発化する西ヨーロッパの商業活動は,いわゆる商業革命後さらに発展,それに伴い宿屋の数も増加し,さまざまな機能を担った。イギリスのインについてみれば,1577年に約6000軒が確認され,その後激増していったと思われる。基本的には宿と酒食を提供し,かつ都会では定期馬車の駅舎ともなっていた。しかも,それは工業化前の社会では教会を除いて最も大きな建造物の一つであり,人間や商品,情報が集中する場所でもあったから,ほかにも多くの機能を与えられた。劇場,ホール,商品取引所,職業斡旋所,情報交換所,郵便局などの役割がそれである。インは元来,市の開かれる広場に面して建てられていたが,巨大化するにつれてやや郊外に移り,馬車が通り抜けられる中庭を,2~3階建ての建物がとりまく構造になってくる。一階には旅客用の商店とパブがあり,二階以上が宿泊用の部屋である。馬車馬用の牧草地を備えているインも多かった。商品の発着場であったインは商品取引所となり,イン経営者(インキーパー)は代理商や競売人にもなった。また,インは地方からきた人間が最初に着く場所であったから,とくに大都会のイン経営者が口入れ屋の役割をはたしたのも不思議ではない。また,世俗の問題でおおぜいの人間が集合しうる唯一の場所として,選挙運動などの政治集会をはじめ,慈善学校の理事会,運河会社の設立総会,講演会,ロンドンからきた芝居,見せ物など,地方の文化活動にかかわる集会もインを舞台として展開された。18世紀はじめに150軒くらいあったと思われるロンドンの大規模なインは,特定の地方への定期馬車の発着場として,それぞれの地方と密接な結びつきをもっていた。地方から上京した人々は,なお故郷の雰囲気を多く残したこの宿から,不安と希望にみちたロンドン生活を始めたのである。この種のインは,その地方の特産物の取引所としても知られるようになった。

 鉄道時代の到来によって,インはその本来の機能の多くを失う。旅行の速度が速くなるにつれインは不要にもなったし,駅,ホテル,パブ,レストラン,公会堂,劇場,コンサート・ホールなど,インに集中していた諸機能が,それぞれ専門の施設によって受け継がれたからである。これに伴って,かつては支配階級である地主=ジェントルマンに近い存在とされたイン経営者の社会的地位も低下した。一階がパブ,二階以上が宿泊施設というインは,いまでも地方にみられるが,もはやそれは〈宿屋兼居酒屋〉以上の機能を有してはいない。
執筆者: 植民地時代初期のアメリカでは,宿屋はオーディナリーordinaryと呼ばれていたが,独立革命前には,イギリスではもっぱら食事と酒を供する場所をさすタバーンtavernの語が宿屋の意味で定着した。インの語はあまりにもイギリス風であったため,使用が避けられたという話もある。開拓時代の西部では,タバーンは駅馬車の中継地として旅人に宿と飲食を提供し,住民には社交,集会の場,酒場として利用された。しかし,1794年にはアメリカ最初のホテル〈シティ・ホテル〉がニューヨークに開業し,しだいにホテルが西部に普及する。それに伴い,タバーンは宿屋としての機能を奪われ,酒場としての機能はサルーンに引き継がれ,サルーンは1870年ころから全盛時代を迎える。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「宿屋」の意味・わかりやすい解説

宿屋
やどや

旅館

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世界大百科事典(旧版)内の宿屋の言及

【旅籠】より

…江戸時代,街道宿駅などで武家や一般庶民を宿泊させた食事付の宿屋をいう。旅籠は元来,馬料入れの丈の低い竹籠をさしたが,《今昔物語集》等によれば旅行中に食糧を入れて持参する旅具であった。…

【船宿】より

…江戸時代から明治前半にかけて,全国の廻(回)船の寄港地にあった乗組員の宿屋のこと。当時の回船は港ごとに船宿が決まっていた。…

【旅館】より

… 旅館という語は中国から伝来した言葉であるが,明治時代になってそれまでの宿泊施設よりもより高級な施設を意味する言葉として使われ始めた。ただし,この語が広く用いられるようになったのは昭和になってからで,明治における宿泊施設の一般的呼称は〈宿屋〉であり,法律上の用語としても宿屋が用いられた。明治時代には警察令による〈宿屋営業取締規則〉があり,同規則によれば,宿屋は,旅人宿,下宿,木賃宿の3種に分類されていた。…

※「宿屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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