学説彙纂(読み)がくせついさん

改訂新版 世界大百科事典 「学説彙纂」の意味・わかりやすい解説

学説彙纂 (がくせついさん)

533年,ビザンティン皇帝ユスティニアヌス1世により発布された全50巻の法典。ラテン語でディゲスタDigesta,ドイツ語ではパンデクテンという。帝の命によりトリボニアヌスTribonianusを中心とする編纂委員会が,法学教育ならびに裁判実務の便宜のために,古典期法学者の著作から抜粋しそれぞれの題目ごとにまとめて配列したもので,若干の公法的規定を除き,大部分は私法的内容であり,勅法彙纂Codexと並びローマ法大全核心をなす。古典法を知る資料として最も重要であるが,委員会が利用した古典期法学者の著作の写本自体が既に伝承の過程で修正を被っていたことがありうること,および,帝が委員会に対し,法文間の矛盾を除去し,また,現行の法として必要な変更を加えることを命じている(これにより加えられた修正interpolatioを〈トリボニアヌスの修正〉という)ことに留意しなければならない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「学説彙纂」の意味・わかりやすい解説

学説彙纂
がくせついさん
Digesta; Pandectae

ユスチニアヌス帝の立法中最大の内容と最高の重要性をもち,ローマ法の精華とたたえられる法典。 533年公布。いわゆる古典期の法学者,とりわけ引用法の5人の法学者の著作から抜粋した法文の集成で,法文総数 9142に及び,50巻から成る。『学説彙纂』 50巻は,第 30~32巻の3巻を除いて,各巻 liberが章 titulusに分れ,各章のもとに法学者の著作から抜粋した法文 lex,fragmentumが原著者の名,著書の題目,巻数などの順序で記載される。法文はさらに分節 paragraphusに細分され,その分節の前に前文 principiumがおかれている。本法典は近代法上の論理一貫した,完結体としての法典ではなく,カズイスティクで,法文の配列は乱雑で,体系的に整序されていない。この法典の発効とともに,これに集録されなかった著作,要約書の類は裁判所の実務においても,法学の講義においても,その使用を禁止されるとともに,本法典に対する自由な批判と解釈・注解も全面的に禁止された。

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世界大百科事典(旧版)内の学説彙纂の言及

【注釈学派】より

…11世紀末ないし12世紀初頭,北イタリアのボローニャでローマ法大全の全体,なかでもその最も浩瀚かつ重要な部分である〈学説彙纂〉が学問的に再発見されることになった(いわゆる〈ローマ法(学)の復活〉)が,ここに成立したローマ法の研究・教育の学派が注釈学派(ボローニャ学派ともいう)である。彼らにとってローマ法大全は神意の発現たる法真理そのものの表示(〈書かれた理性〉)として権威的なテキストであり,その配列順に法文に分析的釈義(〈注釈glossae〉)を施していくことが中心課題となった。…

【ドイツ普通法】より

…帝室裁判所令(1495)は,これを神聖ローマ帝国の普通法として,補充的効力を付与した。これはその後ドイツ固有法と混合して,パンデクテン(〈学説彙纂〉)の現代的慣用となったが,帝国解体(1806)後も効力を保持し,19世紀パンデクテン法学によりいっそう学問的に精錬され,ドイツ近代私法の基礎を形づくった。普通法は法曹法の一種で,実務法曹や法学教授によって担われ,ドイツ民法典(1900)の施行まで,ラントの諸法典により明示的に適用を排除された場合を除き,全ドイツ私法として通用した。…

【ローマ法大全】より

…ビザンティン帝国(東ローマ帝国)ユスティニアヌス1世(在位527‐565)が制定発布した〈法学提要〉〈学説彙纂〉〈勅法彙纂〉および〈新勅法〉に対する総称で,ユスティニアヌス法典とよばれローマの法律および法学説が集大成されている。ビザンティン帝国における法学の復活を背景とする法学教育および裁判実務の要請に対応し,同時にローマ帝国の栄光の再興というユスティニアヌス1世自身の政治的文化的企図から,まず528年,彼は高級官僚(トリボニアヌスを含む)および若干の法学者によって構成される10名の委員会に命じて勅法の集成を行わせ,翌年完成・発布された。…

※「学説彙纂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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