子房(読み)しぼう(英語表記)ovary

翻訳|ovary

精選版 日本国語大辞典 「子房」の意味・読み・例文・類語

し‐ぼう ‥バウ【子房】

〘名〙 被子植物雌しべ下端のふくらんだ部分。一枚から数枚の心皮が結合してできたもので、一個から数個の室からなり、各室に一ないし多数の胚珠ができる。上部は花柱に連なり、受精すると子房は発達して果実に、胚珠は種子になる。雄しべ、花弁、萼との位置関係から子房上位中位下位に分けられる。実礎(じっそ)。〔植学訳筌(1874)〕

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デジタル大辞泉 「子房」の意味・読み・例文・類語

し‐ぼう〔‐バウ〕【子房】

被子植物雌しべの基部にあり、膨らんで袋のようになっている部分。上は花柱に、下は花托につながる。中に胚珠はいしゅがあり、そこで受精が行われ、種子ができると熟して果実になる。花托との位置関係から子房上位・子房中位子房下位に分けられる。実礎じっそ
[類語]しべ花蕊かずい花心雌蕊めしべ雄蕊おしべ雌花雄花柱頭花粉受粉

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改訂新版 世界大百科事典 「子房」の意味・わかりやすい解説

子房 (しぼう)
ovary

被子植物にみられる構造で,めしべが袋状となり,中に胚珠ovuleが入っている部分で,熟すとになる。胚珠は子房壁ovary wallにより囲まれた子房室loculeの中にあり,外界から隔離されていて,胚珠が病気や虫により直接おかされることを防いでいる(図1)。また子房室内は胚珠の生長に適した環境,とくに湿度が保たれている。子房は1室~多室で,2室以上のものでは,隔壁septumで仕切られている。

 胚珠のつくところを胎座placentaとよぶが,これは基本的に心皮の二つの縁辺である。ピーマンのように胎座が大きくなり,多数の胚珠をつけることがあり,スイカやナスでは子房室が胎座により満たされる。子房における胎座の位置は心皮の合着のしかたや胚珠の数により異なり,また系統発生の過程でさまざまな変化をしたと考えられる。

 胎座のつき方を胎座型placentationとよび,被子植物の系統を考えるうえで重視され,形態学的にもよく研究されている。離生めしべでは子房は1室で,普通,胚珠は心皮の縁辺につく。このようなものを縁生胎座型(図2-a)とよび,原始的な型である。離生めしべをもつが,アケビスイレンでは子房室の側壁に胚珠がつき,面生胎座型(図2-d)という。この型を原始的とする考えもあるが,合生めしべで下位子房をもつトチカガミミズオオバコでも面生胎座型である。合生めしべで子房の中央(心皮の縁辺が合着したところ)に胚珠がつくものを中軸胎座型(図2-b)とよぶ。この型から隔壁がなくなったものを独立中央胎座型(図2-c)とよび,マツバボタンサクラソウにみられる。ナシやカボチャのように子房中央の合着部が離れたものを側膜胎座型(図2-e)とよび,スミレパパイアのように隔壁がなくなると子房は完全に1室となり,その側壁に胚珠がついたようにみえる。胚珠が一つになり,子房室の最下部についたものを基生胎座型(タデ,クルミ,イネ),また最上部についたものを頂生胎座型(オリーブ,ニワトコ)として区別する。

 多くの花では萼,花冠,おしべ,およびめしべは同じ位置につき,したがって子房はこれらの付着部(花床)より上の位置にあるので,子房上位(図3-a)とよばれる。ナシやカボチャの子房は萼,花冠などの付着部より下にあり,子房下位(図3-d)という。両者の中間型が子房中位(図3-b,c)で,子房が花床(バラ)や花管(サクラ)に包まれながら,組織的には離れているものと,ヒシのように一部が合着しているものとがある。下位子房は中位子房が花床や花管と完全に合着したものである。解剖学的所見によれば,花床合着型はビャクダン科,サボテン科,ヒルギ科のオヒルギなどで例外的に知られているにすぎず,多くの下位子房は花管の合着型である。子房が下位になることにより,胚珠は子房壁と花冠(花床)により二重に保護されることになり,また訪花昆虫からの害を子房は直接受けない構造となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「子房」の意味・わかりやすい解説

子房
しぼう

雌しべの下部の多少とも膨らんだ部分をいい、中に子房室があり、胚珠(はいしゅ)を入れている。子房には内部に仕切りがなくて1室の場合と、仕切りによって、2室、3室、4室、5室などに分かれている場合がある。子房に仕切りがあれば、室の数はその雌しべをつくっている心皮の数と一致するのが普通である。子房1室の場合は1心皮性によるときと、複数の心皮が合成されてできるときがある。胚珠は子房室につくが、胚珠のつくところを胎座とよび、いくつかの型に分けられる。胎座の突出や変形によって、子房室は複雑に入り組んだり、二次的な仕切りができたりすることがある。

 子房の位置によって花の三つの段階が区別される。子房が萼(がく)、花冠、雄しべなどより上にあるものを子房上位とよび、原始的な形態とみなされている。花托(かたく)がくぼんで子房の下部を取り巻き、萼、花冠、雄しべなどが子房の周囲にあるものを子房中位、さらに花托が子房全体を包み込み、萼、花冠、雄しべなどが子房よりも上にあるものを子房下位とよんでいる。子房下位の場合では、子房壁と花托、ときにはさらに萼筒が合体し、しばしば組織的にも区別が困難となる。胚珠が成熟して種子になれば子房も大きくなって果実となるが、子房下位花では、普通、果実には花托などのような子房以外の要素が加わって偽果となる。

[田村道夫]


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百科事典マイペディア 「子房」の意味・わかりやすい解説

子房【しぼう】

被子植物のめしべの下部にあって,胚珠が入ってふくらんでいる部分をいう。胚珠は子房壁につつまれた子房室の中にあり,湿度と安全が保たれる。胚珠のつくところを胎座と呼ぶが,そのつき方は種によって異なり,いくつかの胎座型が区別される。また子房の付着部が花被やおしべ,めしべの付着部より上にあるか下にあるかによって,子房上位(ナタネ),子房中位(サクラ),子房下位(ナシ)の区別がある。受精後,子房は発達してとなり,胚珠は種子となる。
→関連項目被子植物蜜腺めしべ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「子房」の意味・わかりやすい解説

子房
しぼう
ovary

被子植物の花のめしべ (雌ずい) の下部にあり,雌性生殖細胞を分化する部分。1~数枚の心皮が袋状に癒合したもの。心皮の縁は巻込まれて胎座となり,のちに種子となる胚珠をつける。子房と花のほかの部分 (おしべや花弁) との位置関係は次の3型に分けられる。 (1) 上位子房 リンドウ科,アブラナ科,イネ科のようにおしべより子房のほうが上にあるもの。 (2) 下位子房 キク科,アヤメ科のように子房がおしべより下にあるもの。 (3) 中位子房 ユキノシタ科のように前2者の中間型のもの。花の中での子房の位置は,被子植物の分類の際に用いられる重要な要素の一つである。

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