奴隷的拘束苦役からの自由(読み)どれいてきこうそくくえきからのじゆう

改訂新版 世界大百科事典 の解説

奴隷的拘束・苦役からの自由 (どれいてきこうそくくえきからのじゆう)

日本国憲法の18条〈何人も,いかなる奴隷拘束も受けない。又,犯罪に因る処罰の場合を除いては,その意に反する苦役に服させられない〉で保障されている自由権。

 奴隷的拘束とは,奴隷なみと考えられるほどに身体を拘束することをいう。奴隷,人格を無視した拘束のもとにおかれている公娼私娼,〈監獄部屋〉〈たこ部屋〉の労働者,人身売買などが該当する。奴隷的拘束からの自由とは,そのような身体の拘束からの自由を意味する。〈その意に反する苦役〉とは,自分の同意しない労役や身体の拘束状態を意味し,強制労役,強制連行,強制監禁などがその例である。奴隷的拘束にならない程度の身体の一方的拘束といってもいいであろう。〈その意に反する苦役〉からの自由は,そうした身体の拘束からの自由を意味する。

 これらの自由については,次の2点に注意すべきである。第1は,〈その意に反する苦役〉からの自由については,〈犯罪による処罰の場合〉だけが例外になるということである。犯罪による処罰の場合だけ,懲役禁錮などその意に反する拘束が認められる。憲法の保障する基本的人権は,〈内在的制約〉(公共福祉)の名において法律により制限される。だが,憲法が基本的人権の制限のしかたをみずからはっきりと定めている場合には,憲法自身が〈内在的制約〉による制限の方法を示しているのであるから,それ以外に法律で〈内在的制約〉の名による制限をすることはできない。〈その意に反する苦役〉からの自由の場合,〈犯罪に因る処罰の場合〉以外に法律で例外を設けることができるとすると,憲法がその場合だけをあげていることが無意味になる。

 第2に,奴隷的拘束からの自由については,〈犯罪に因る処罰の場合〉にも例外が認められないということである。〈犯罪に因る処罰の場合を除いては〉という文言がその意に反する苦役からの自由だけにかかっていることおよび,第18条前段が〈いかなる奴隷的拘束も受けない〉としているところから,明らかである。
公共の福祉 →人身の自由
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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