塩化硫黄(読み)えんかいおう(英語表記)sulfur chloride

精選版 日本国語大辞典 「塩化硫黄」の意味・読み・例文・類語

えんか‐いおう エンクヮいわう【塩化硫黄】

〘名〙 熔融硫黄塩素を加えて作った黄赤色の発煙性液体刺激臭があり、ゴムの冷加硫剤や充填剤に用いる。

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デジタル大辞泉 「塩化硫黄」の意味・読み・例文・類語

えんか‐いおう〔エンクワいわう〕【塩化硫黄】

硫黄塩素化合物二塩化二硫黄(S2Cl2)・二塩化硫黄(SCl2)・四塩化硫黄(SCl4)などがある。二塩化二硫黄はゴムの冷加硫用や殺虫剤使用

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改訂新版 世界大百科事典 「塩化硫黄」の意味・わかりやすい解説

塩化硫黄 (えんかいおう)
sulfur chloride

硫黄の塩化物の総称。3種類が知られている。

化学式S2Cl2。一塩化硫黄SClとも呼ばれる。融解した硫黄をフラスコなどの壁面に薄く広げて室温で冷却し,塩素を導いて,50~80℃で直接に反応させ,生成物を1気圧137℃以上で蒸留して得る。刺激臭のある黄色の液体。不純物として二塩化硫黄SCl2が混入しているものは橙色あるいは赤色である。湿った空気中で発煙する。融点-80℃,沸点138℃,比重1.68(20℃)。二硫化炭素,エーテルベンゼンに溶ける。水で加水分解してHCl,SO2,H2S,ついでS,H2S2O3,H2SnO6n=2,3,……)を生ずる。

化学式SCl2。粗S2Cl2塩化鉄(FeCl2またはFeCl3)を少量加えて塩素ガスを反応させ,次に塩化リン(III)PCl3を少量加えて蒸留をくり返してつくる。沸点59℃,融点-78℃,比重1.62(20℃)。刺激臭のある暗赤色液体。たやすく分解してS2Cl2とCl2になる。水と反応して,S,H2S2O3,H2SnO6,H2SO4などを生ずる。n-ヘキサンに可溶

化学式SCl4。SCl2に低温で液体塩素を作用させてできる黄色の結晶。構造は[SCl3]Clと考えられる。-30℃で溶けて赤褐色の液体となり,同時にSCl2とCl2に分解する。

 塩化硫黄は硫黄をよく溶かし,Cl-Sn-Clの構造のジクロロスルファンdichlorosulfanをつくる。nが100くらいのものまで知られている。
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化学辞典 第2版 「塩化硫黄」の解説

塩化硫黄
エンカイオウ
sulfur chloride

】二塩化二硫黄(disulfur dichloride):S2Cl2(135.04).普通,塩化硫黄という場合は,S2Cl2をさすことがある.溶融硫黄に塩素を反応させると得られる.発煙性のこはく色,または黄赤色の油状液体.Cl-S-S-Cl分子が存在し,S-Cl2.057 Å,S-S1.931 Å.∠S-S-Cl108.2°.内部回転角は85°.融点-80 ℃,沸点138 ℃.密度1.69 g cm-3.アルコール類,ベンゼン,四塩化炭素などの有機溶媒に可溶.水で加水分解してS,SO2,HClになる.塩素化剤として,殺虫剤,染料,合成ゴムなどの製造に用いられる.有毒刺激性で皮膚,眼,粘膜などをおかす.[CAS 10025-67-9]【】二塩化硫黄(sulfur dichloride):SCl2(102.97).S2Cl2に塩素を作用させると得られる.暗赤色,刺激臭の液体.気体分子は折れ線形Cl-S-Clで,S-Cl2.015 Å.∠Cl-S-Cl102.7°.融点-122 ℃,沸点59.6 ℃.密度1.62 g cm-3.ヘキサンに可溶.水で分解して,H2S,SO2,H2SO4を生じる.溶剤,塩素化剤,ゴムの加硫,殺虫剤などに用いられる.蒸気は粘膜を刺激して有毒.[CAS 10545-99-0]【】四塩化硫黄(sulfur tetrachloride):SCl4(173.88).SCl2に-75 ℃ で塩素を反応させると得られる.不安定な黄色の結晶.構造はSCl3 Clと考えられている.-30 ℃ で融解するとともに分解がはじまり,SCl2と Cl2 になる.水で加水分解してSO2とHClになる.[CAS 13451-08-6]【】二塩化ポリスルファン(polysulfane dichloride):SnCl2(n = 3, > 3).SnCl2は,-80 ℃ でSCl2に過剰のH2SまたはH2Snを作用させると得られる.構造はCl-S-Sn-S-Clと考えられる.S3Cl2は黄色の液体.融点-46 ℃.密度2.63 g cm-3.そのほか,S4Cl2,S5Cl2などが知られている.[CAS 31703-09-0:S3Cl2][CAS 15731-86-9:S4Cl2][CAS 35380-30-4:S5Cl2]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩化硫黄」の意味・わかりやすい解説

塩化硫黄
えんかいおう
sulfur chloride

硫黄と塩素の化合物。主たる化合物として二塩化二硫黄S2Cl2、二塩化硫黄SCl2、四塩化硫黄SCl4の3種の塩化物が知られている。

 二塩化二硫黄は、融解した硫黄に塩素ガスを通してつくる。橙(だいだい)色の刺激臭のある発煙性液体で、沸点138℃。Cl-S-S-Cl分子からなるが、蒸気になると一部解離して赤色となる。水によってゆっくり加水分解して、塩酸、硫黄、二酸化硫黄、チオン酸などを生じる。

 二塩化硫黄は暗赤色の液体で、硫化水素と塩素との反応で得られるが、工業的には、二塩化二硫黄に室温で塩素を飽和させ、二酸化炭素で過剰の塩素を追い出して得られる。

 四塩化硫黄は、硫黄と塩素の直接結合で得られる黄色液体で、低温でだけ安定に存在する。

 塩化硫黄は、硫黄の溶媒としてゴムの加硫に用いられるほか、塩素置換剤として有用な塩化チオニル、殺虫剤の製造など合成に用いられる。

 その他SCl2と低温でH2Snn=2、3、4)を反応させてSnCl2n=3~8、黄色ないし橙(だいだい)色液体)が得られ、その他S2Cl2と水素を熱時反応させてS20~24Cl2(橙黄(とうおう)色粘性のある液体)、S100Cl2(淡黄色固体)などが得られる。

[守永健一・中原勝儼]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩化硫黄」の意味・わかりやすい解説

塩化硫黄
えんかいおう
sulfur chloride

普通は二塩化二硫黄 S2Cl2 をさす。融解硫黄に塩素を通じ,分留して精製する。不燃性,薄い琥珀色ないし黄赤色の発煙性油状液体。蒸気には腐食性がある。眼,鼻,のどを強く刺激し,催涙性があり,吸入により呼吸困難となる。比重 1.68,融点-80℃,沸点 138℃。アルコール,エーテル,ベンゼン,四塩化炭素などに可溶。硫黄,ヨウ素,金属塩化物,有機化合物に対するすぐれた溶媒である。水により分解し,硫黄,二酸化硫黄,塩化水素を生じる。密栓し,湿気を避けて保存する必要がある。油脂の改質,ゴムの加硫,硫黄の溶剤,殺虫剤などに使われる。ほかに二塩化硫黄 SCl2 ,四塩化硫黄 SCl4 ,ジクロロスルファンがある。

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