国家独占資本主義(読み)コッカドクセンシホンシュギ(英語表記)state monopoly capitalism

デジタル大辞泉 「国家独占資本主義」の意味・読み・例文・類語

こっか‐どくせんしほんしゅぎ〔コクカ‐〕【国家独占資本主義】

独占資本がその支配体制の存続・強化を図るために、国家機関最大限に利用する体制。独占資本主義の最新の発展段階をいう。

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精選版 日本国語大辞典 「国家独占資本主義」の意味・読み・例文・類語

こっか‐どくせんしほんしゅぎ コクカ‥【国家独占資本主義】

〘名〙 独占資本主義の新しい形態で、少数の独占資本が国家機関を従属させて最大限利潤獲得の道具とし、資本主義体制を維持する機構。マルクス経済学によれば、第一次世界大戦後の世界恐慌を契機として、主要資本主義国はこの段階に移行したとされる。

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改訂新版 世界大百科事典 「国家独占資本主義」の意味・わかりやすい解説

国家独占資本主義 (こっかどくせんしほんしゅぎ)
state monopoly capitalism

独占体(市場を独占的に支配している巨大企業)が国家権力・機構と密接に結びついた資本主義経済体制。19世紀末から資本主義はいわゆる帝国主義段階へ移行する。この段階の特色は,これまでの自由主義段階に比較して,国家と経済活動の関係がいっそう密接になったということである。その一つの理由は,世界資本主義の軸をなしていたイギリス資本主義に対するドイツをはじめとする後進資本主義諸国の世界市場における競争力の強化に,国家の政策的介入が必要であり,有効であったからである。それとともに,世界市場における競争形態は,しだいに国家間の経済的対立という様相を濃くしていった。このような情勢の延長上に第1次大戦が勃発するが,戦争経済によって国家と経済活動の関係がいっそう密接になったのはいうまでもない。19世紀末から第1次大戦に至るまでの,このような国家の経済活動への介入の強化と関係の密接化は,ヒルファディングの〈組織化された資本主義〉論やレーニンの〈国家資本主義〉論に理論的に反映されることになった。

 第1次大戦後の世界恐慌(大恐慌)の勃発は,国家と経済が密接に関係し大きな質的変化を与えることになる。世界恐慌はその規模の大きさにおいても,不況期間の長さにおいても,またその深刻さにおいても史上例をみないものであった。その理由の一つは,資本主義経済において独占化が進行し,経済の自律的調節機能がしだいに失われてきていたことにある。世界恐慌は,資本主義の体制的危機についての問題意識を一挙に表面化させることになった。資本主義体制における国家の役割は,個別の独占体との関係を超えたより広い国民経済的な観点からの,より体系的な政策機能を果たすことを要請されてくる。このことを可能ならしめる条件として,世界恐慌後に成立した管理通貨体制(管理通貨制度)のもつ意味が重要である。これによって国家は財政国家としての地位を確立し,積極的な景気刺激政策によって失業問題をコントロールできるようになったばかりか,社会福祉政策による体制安定政策を展開しうるようになった。管理通貨体制による国家の積極的政策機能の確立は,資本主義体制の根幹をなす資本と賃労働の関係に対する国家の介入を可能にするが,このような現代国家のもつ階級的性格を国家独占資本主義の成熟の基準とみなす見解も有力である。

 第2次大戦後において,国家独占資本主義はいっそうの変貌を遂げるに至る。一つは,戦後経済の再建を目ざして先進資本主義国間に国際的な協調体制が成立したということである。戦前のブロック経済化の再現を防止するため,貿易自由化を基調とするIMF-GATT体制が成立したのがその具体的内容である。第2次大戦後のこのような国際経済の構造変化は,伝統的な帝国主義論の修正を迫る内容をもっていたが,それに対応して,国家独占資本主義を帝国主義の新しい一段階と規定する理論が登場してきた。東ドイツのツィーシャングKurt Zieschangによって代表されるこの理論は,戦後国家独占資本主義論争を生み出し,日本の学界にも強い影響を与えることになった。

 国家独占資本主義に関するもう一つの現代的論争視点は,国家の階級的性格の変化をめぐる論争である。戦後民主主義の発展と福祉国家としての基盤の確立は,現代資本主義体制における国家の役割と機能を,たんにブルジョアジーの執行機関としての古典的定義によって規定することをしだいに困難ならしめていった。ここに国家独占資本主義と過渡期論争との新しいかかわり方が生じてくる。レーニン以来,国家独占資本主義は資本主義の最高の発展段階という考えが一般的通説となっていたが,このことが直ちに社会主義への移行の条件を形成するのか,資本主義における民主主義の発展と市民階級の国家権力構造への参加と介入によって混合体制としての安定性を強めるか,という二つの基本的な見方の相違が存在しているのが現状である。この意味で国家独占資本主義論争は,現代の社会主義政党の綱領問題に深くかかわりあう問題になっているといえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国家独占資本主義」の意味・わかりやすい解説

国家独占資本主義
こっかどくせんしほんしゅぎ
state monopolistic capitalism 英語
staatsmonopolistischer Kapitalismus ドイツ語
capitalisme monopoleur d'État フランス語

資本と生産を高度に集中した少数の独占資本が支配するに至っている資本主義の独占資本主義の段階においては、戦争や長期不況などの経済体制の「危機」を管理するために、全面的に国家の制度的・政策的な介入が行われるようになった。このようにして成立した国家と資本主義体制との「融合」体制を国家独占資本主義という。国家独占資本主義ということばは、第一次世界大戦下の資本主義体制の発展傾向を示すものとして、ロシアの革命家レーニンによって、「戦時国家独占資本主義」体制という意味で用いられた。さらにソビエト社会主義体制の出現、1930年代の長期不況などにより、資本主義体制の解体動揺が進む一方で、いわゆるケインズ的経済政策など資本主義経済への政策的介入や補整が広く制度化されていくに伴って、国家独占資本主義体制が先進資本主義経済の一般的な特徴となっていったのである。つまり国家独占資本主義とは、私的市場経済を基本制度とする資本主義が、その独占的発展段階において、資本主義的市場体制の(戦争や不況という)危機的状況を克服するために、国家の政策的介入と補整を全面的に求めた結果として登場する公私混合的な二重経済体制の、マルクス経済学からする命名なのである。

 ここから国家独占資本主義とは、資本主義の全般的危機の時代に、独占資本の支配体制を維持・存続するために採用される国家の権力と経済力の利用形態とみなされ、その究極的な本質は、国家財政や金融政策などの国家の政策機能や制度による独占利潤の確保にある、とされる。そしてまた国家独占資本主義は、すでに「死滅しつつある資本主義」としての独占資本主義の政策的延命策である限り、その体制のもとでは国民大衆に対する支配と収奪が強まり、軍事経済化と経済活動の停滞化と腐朽化が進むと批判される。

 資本主義体制のもとで国家による経済への政策的介入や規制などの制度化が広く進展したのは、第二次世界大戦以降である。しかし、以上のようなマルクス経済学の大方の予想に反して、戦後の資本主義経済は持続的に成長したという現実を背景に、今日、国家独占資本主義概念は再検討を迫られている。まずこのような国家独占資本主義説では、戦後の日本などの非軍事的経済発展の事例を説明できないし、戦後の経済成長によってもたらされた物質的豊かさも正当に説明できない。

 より根本的には、レーニン流の「独占資本主義(=帝国主義)論」だけでは、現代の資本主義の産業構造や企業組織の多面的な発展形態を十分に解明できないように思われるし、また現代の政策や介入の諸制度のもつ役割を「独占資本の利潤実現の手段」と一面的に規定しえないという問題もある。国家の経済機能が私的独占資本のために役だっていることは否定しないとしても、他面では福祉的改良や経済安定の制度として機能している側面もあることは無視できないであろう。

[吉家清次]

『『さしせまる破局、それとどうたたかうか?』(レーニン全集刊行委員会訳『レーニン全集第25巻〈1917〉』所収・1957・大月書店)』『大内力著『国家独占資本主義』(1970・東京大学出版会)』『正村公宏著『現代の資本主義』(1977・現代の理論社)』『大内秀明・柴垣和夫編『現代の国家と経済』(1979・有斐閣)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国家独占資本主義」の意味・わかりやすい解説

国家独占資本主義
こっかどくせんしほんしゅぎ
state monopolistic capitalism; staatsmonopolistischer Kapitalismus

国家が経済に介入する度合いが高まった第1次世界大戦後の資本主義に関するマルクス経済学の用語。国家独占資本主義は,独占資本が独占利潤の追求とその存立の基盤である資本主義体制の維持を目的に,国家権力を従属させ経済社会に支配力を確立している資本主義で,資本主義の最高の発展段階である独占資本主義の高度な形態であるといわれている。資本主義はその発展の過程で資本の集積と集中を進め,19世紀後半からは独占資本が優位を占める独占資本主義の段階に入ったが,さらに第1次世界大戦以降資本主義体制が動揺しはじめたのを契機に,独占資本主義は国家独占資本主義への転化の過程に入り,1929年に始る世界大恐慌がこの転化を決定的にしたとされている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「国家独占資本主義」の解説

国家独占資本主義(こっかどくせんしほんしゅぎ)
Staatsmonopolistischer Kapitalismus

国家の系統的・機構的な介入と統制によって支えられている現代独占資本主義をさすマルクス主義の用語。管理通貨制,財政政策などを特徴とする。第一次世界大戦中の戦時経済についてレーニンが初めてこの用語をつくったが,ふつうは1929年大恐慌以後のニューディールナチズム経済に端を発し,第二次世界大戦後に主要資本主義国で確立したとされる。これを「傾向」とみるか,「段階」とみるかで論争があった。

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世界大百科事典(旧版)内の国家独占資本主義の言及

【資本主義】より

… また,このころには主要諸国で普通選挙制が一般化して大衆の政治的・経済的要求が強まるとともに,ロシア革命によって社会主義の脅威が現実化したために,政府はこれに対応して失業対策などさまざまの社会改革を実施した。
[国家独占資本主義,修正資本主義]
 こうした傾向は大恐慌をへて本格化する。1929年にアメリカでおこった恐慌は,アメリカ国内での過剰な投資の拡大が原因とみなされるが,その深さと広がりは未曾有のものであり,アメリカの失業は一時1300万人,25%にものぼった。…

【ニューディール】より

…これらの政策は,資本主義体制の救済を意図したものであるが,それを達成するために多くのきわめて大胆で斬新な方策が導入され,その過程でアメリカ経済の構造には重要な変化が生じるにいたった。とくに政府の経済的機能が著しく拡大・強化され,国家権力による規制および政府資金の活用が資本主義経済体制の維持にとり不可欠の要素となったが,こうした事態は国家独占資本主義,修正資本主義,混合経済体制といった諸概念で規定されている。ローズベルト自身には当初から明確な体系だった政策論はなく,むしろ必要に応じて施策を行うといった面が強かったが,それだけに世論の動向には機敏に対応し,また急進的といえる改革政策が手がけられたこともあった。…

※「国家独占資本主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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