(読み)ケイ

デジタル大辞泉 「啓」の意味・読み・例文・類語

けい【啓】[漢字項目]

常用漢字] [音]ケイ(漢) [訓]ひらく もうす
わからないことを教えて導く。「啓示啓発啓蒙けいもう天啓
開放する。「啓蟄けいちつ啓明
申し上げる。「啓上啓白謹啓拝啓復啓
出発する。貴人外出敬称。「行啓
[名のり]あきら・さとし・たか・のぶ・のり・はじめ・はる・ひ・ひら・ひらき・ひろ・ひろし・ひろむ・よし

けい【啓】

《「申し上げる」の意》手紙冒頭に用いる語。「拝啓」より敬意が低い。
公式令くしきりょうに定められた公文書の一様式皇太子三后に下から奉る文書
上官に奉る文書。

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精選版 日本国語大辞典 「啓」の意味・読み・例文・類語

けい【啓】

[1] 〘名〙
① 令の編目である公式令(くしきりょう)に定められた公文書の様式の一つ。令旨に対して、皇太子および三后に下から奉る文書。
※令義解(718)公式「奉令依啓。若不啓者。即云。令処分。云々」
② 皇太子や三后に事を申し上げること。→啓する
※御湯殿上日記‐文明九年(1477)一二月二九日「日野の中納言ひろ光の卿けいをそうす」
奈良時代私文書で、個人の間でとりかわされた往復書状。
正倉院文書‐天平宝字七年(763)五月二四日・安都雄足啓「謹啓 借請黒米参斛伍斗 小豆伍斗〈略〉今具状、謹啓」
④ 近代以後、手紙のはじめに書いて敬意を表わす語。「拝啓」より、敬意が少ない。
※都の友へ、S生より(1907)〈国木田独歩〉「啓、小生は近頃流行の問答体にて此書状を認め」
[2] 中国古代の伝説上の王。夏の禹王(うおう)の子。姓は姒(じ)禅譲によって帝位についた益に代わり、禹の徳を思う諸侯に推されて即位。この時から世襲王朝制が始まったという。

けい‐・する【啓】

〘他サ変〙 けい・す 〘他サ変〙
① 三宮(太皇太后皇太后皇后)、皇太子に申しあげる。貴人に言上する。天皇には「奏す」を用いる。
※大和(947‐957頃)一六八「五条の后(きさい)の宮より、内舎人を御使にて山々尋ねさせ給ひけり。〈略〉少将大徳うちなきて、〈略〉『かぎりなき雲ゐのよそに別るとも人を心におくらざらめやは、となむ申しつるとけいしたまへ』といひける」
② (特に、記録体など、漢文調の文章で) 相手を敬って、申し上げる、言上するの意に用いる。
※東寺百合文書‐ほ・(天承元年カ)(1131か)五月二六日・左大史小槻政重請文「他事追可啓候」
[補注]「奏す」「啓す」は、帝・院・后・東宮といった限られた相手にのみ用いられるところから、絶対敬語といわれる。しかし、「啓す」は、往来物等では、単に貴人に対して申し上げるという意味で使用されており、また、「宇津保物語」では、「院」に対して申し上げる意味の用法が目立つ。当時、あるいは厳密な区別なしに用いられたものか。

けい‐・す【啓】

〘他サ変〙 ⇒けいする(啓)

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改訂新版 世界大百科事典 「啓」の意味・わかりやすい解説

啓 (けい)

公式様(くしきよう)文書の一つ。皇太子および皇后,皇太后,太皇太后に対して,その司から上申する文書。養老公式令に春宮(とうぐう)坊の啓の様式が規定されている。それによれば最初に〈春宮坊啓〉と書し,その次に本文を書き,書き止めの語は〈謹啓〉,次に年月日を記し,位署欄は大夫位姓名,亮位姓名とならべて署す。三后にあてるものもこれに準じた。六国史などにみられるが,内容的には書式のととのったものではなく,比較的早くに用いられなくなったと思われる。これとは別に,奈良時代から個人の上申文書に〈啓〉の語を入れたものがあり,それが私文書の源流として現在に〈拝啓〉〈一筆啓上〉のような書簡用語を残したともいわれる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「啓」の意味・わかりやすい解説


けい

公式令(くしきりょう)に規定された文書の一様式。皇太子および三后(さんこう)(皇后、皇太后、太皇太后)に上申するとき用いる文書。諸役所、私人が事を皇太子に上申するとき、文書を春宮坊(とうぐうぼう)に送り、春宮坊の啓をもって皇太子の認可を仰ぐこととなっていた。三后は皇太子の場合と同じ規定であった。しかし奈良時代に個人間の私的書状にも「啓」「謹啓」などと書いたものがある。現在、手紙の書出しに使われる「謹啓」「拝啓」などはこの名残(なごり)である。

[百瀬今朝雄]

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【奏議】より

…古くは上書といい,漢代では章,奏,表,議などといった。魏・晋時代以後は啓といい,唐・宋時代では表,状,剳(さつ),書などともよばれた。内容は政治の得失を論じるのが多いが,儀式や謝恩や天変地異について述べる場合もある。…

※「啓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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