呉音(読み)ごおん

精選版 日本国語大辞典 「呉音」の意味・読み・例文・類語

ご‐おん【呉音】

〘名〙
中国華南の呉、越(えつ)地方に行なわれた読書音。
悉曇蔵(880)五「承和之末、正法師来〈略〉元慶之初、聰法師来〈略〉此両法師共説呉音・漢音、且如摩字・那字・泥字・若字・玄字・廻字等類、呉似和音、漢如正音、漢士不呉、呉士不漢」 〔法華経釈文〕
② 古代日本へ朝鮮から渡来した漢字音。平安中期までは和音と呼ばれていたが、平安中期以後、呉音とも呼ばれるようになった。漢音・宋音唐音などに対していう。
北山抄(1012‐21頃)三「結申之詞頗与史異。史者、越前備後等之類也。大臣不然。只用呉音
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「家(か)は漢音だ。呉音では家(け)とよむてな。〈略〉国学は呉音でよむが、又仏氏(ぼうず)の方なども呉音でよむ」
[語誌](1)古代日本に伝わった漢字音を呉音と呼ぶ確証は、平安中期の藤原公任(②の「北山抄」の例)以後である。それ以前には和音と呼んだ(①の「悉曇蔵」の例)。
(2)中国で隋唐代以後漢音を正しい音とするのに対し、南方音を、「古くてなまった音」という気持から「呉音」といったのにまねて、日本でも平安中期から、漢音を正音と呼ぶのに対し、和音を呉音というようになったらしい。それが呉という名前に引かれて、呉音は南方中国から渡来したという説が発生した。この説が江戸時代漢学者国学者に引きつがれて、現代でも行なわれているが、呉音の源流朝鮮半島からさらにさかのぼって漢魏時代古音に求める説もある。

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デジタル大辞泉 「呉音」の意味・読み・例文・類語

ご‐おん【呉音】

古く日本に入った漢字音の一。もと、和音とよばれていたが、平安中期以後、呉音ともよばれるようになった。北方系の漢音に対して南方系であるといわれる。仏教関係の語などに多く用いられる。→漢音唐音

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改訂新版 世界大百科事典 「呉音」の意味・わかりやすい解説

呉音 (ごおん)

日本における漢字音の一種六朝時代の中国の呉の地方と交通のあった百済人が日本に伝えたもので,隋・唐代の北方音を伝えた漢音よりも中国語音の古形を反映するというのが通説。仏教関係の用語にもちいられることが多い。対馬(つしま)音は呉音の別称である。
字音
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百科事典マイペディア 「呉音」の意味・わかりやすい解説

呉音【ごおん】

日本の字音の一種。中国語南方方言に基づくものといわれる。時代は漢音よりも古いとされる。六朝時代呉と交流のあった朝鮮の百済を通じて伝来したと伝える。対馬音(つしまおん)とも。日本には7世紀ごろまでに伝わり,早く日本語のうちにとり入れられたとされるが,しだいに漢音語彙(ごい)に交替した。しかし仏教関係の用語では根強く,後世に及んだ。
→関連項目唐音

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「呉音」の意味・わかりやすい解説

呉音
ごおん

日本の漢字音の一種。漢音以前に日本に伝えられた字音で,中国語の揚子江下流方面の南方方言からであろうと推定されている。仏教経典の読み方に多く用いられた。おもな特徴は,(1) 子音の清濁を区別している (刀=タウ,陶=ダウ,漢音ではともにタウ) ,(2) 鼻音/m/,/n/をそれぞれマ行,ナ行で取入れている (馬=マ,男=ナン,漢音ではバ,ダン) ことなど。

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普及版 字通 「呉音」の読み・字形・画数・意味

【呉音】ごおん

呉地の音声。

字通「呉」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「呉音」の意味・わかりやすい解説

呉音
ごおん

字音

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世界大百科事典(旧版)内の呉音の言及

【漢字】より

…これらは朝鮮を経て伝来したらしい。下って《古事記》や《万葉集》に主として用いられた字音は,世に呉音と呼ばれる字音とだいたい一致する。これは長江(揚子江)下流地方の六朝ころの音で,日本には推古時代前後に流入し,ひろく一般に行われて,日本の字音の基礎をなした。…

【字音】より

…もちろん,訓は中国語の字音の借用ではない(〈馬(うま)〉〈梅(うめ)〉等微妙なケースもないではないが)ので,漢字音ではない。 一方,〈音〉には大別して〈呉音(ゴオン)〉(対馬音(ツシマオン)),〈漢音(カンオン)〉〈唐音(トウイン∥トウオン)〉(宋音)の三つがあり,それぞれ別の字音体系を成している。例えば,〈明〉は呉音ミヤウ,漢音メイ,唐音ミン,〈公〉はそれぞれク,コウ,クンである。…

【中国語】より

…全体として比較的古くから文化の先進地区に組み込まれた地方を多く含む。日本の漢字音のうちの〈呉音〉とも明らかに縁が深く,日本の呉音の漢音との相違の最も大きなもの,すなわち中国共通語音でm,nを声母とする諸音節に対応する漢音のバ・ダ両行字に始まる音,たとえば〈馬〉のバ,〈乃〉のダイなどは除いた濁音群を声母とするものは,中古の標準音の中には存在していて,すでに見た共通語などの清音における無気・有気の2項対立に,さらに1項を加えた3項対立を形づくっていたと考えられるが,それは今でも呉方言の最も大きな特徴であり,ほかにこれを保存するのは湘方言に属する双峰方言などしかないとされる。いいかたを変えれば,中国現代の諸方言の中で,この呉方言と湘方言のほんの一部だけが,かつてはもっと広範囲に存在していたにちがいない濁音を残しているということになるのである。…

※「呉音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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