原発性マクログロブリン血症

内科学 第10版 の解説

原発性マクログロブリン血症(血漿蛋白異常をきたす疾患)

(2)原発性マクログロブリン血症primary macro­globuliemia)
定義・概念
 1948年にWaldenströmがはじめて報告したIgMを分泌するリンパ形質細胞腫瘍である.骨髄腫と同様に骨髄中で腫瘍細胞が増殖するが,骨髄腫とは異なり骨病変や高カルシウム血症をきたすことはない.一方,腫瘍細胞の浸潤と増殖に起因するリンパ節腫脹肝脾腫大をきたすことが多く,主要な臨床徴候は過粘稠度症候群である.慢性リンパ性白血病,骨髄腫および悪性リンパ腫との鑑別が必要であるが,腫瘍細胞は形態学的に形質細胞様リンパ球で,マントル層B細胞由来と考えられている.病因は不明である.
疫学・発症率・統計的事項
 男性に多く,加齢とともに発症頻度が上昇する.
病態生理
 骨髄,リンパ節および脾臓において単クローン性の形質細胞様Bリンパ球が増加し,それらが産生する五量体IgMが血中に増加する.IgM型M蛋白(IgM パラプロテイン)の80%は血管内に存在するため,しばしば過粘稠度症候群を発症する.
臨床症状
 無症状で,他疾患における定期診断時の採血や健康診断で偶然に見つかることもある.全身倦怠感,易疲労感,繰り返す感染症などの骨髄腫と類似した症状もあるが,約15%の症例においては骨髄腫では一般的に認めない過粘稠度症候群の症状(鼻出血,視力障害,末梢神経障害に代表される精神神経症状,めまい,頭痛一過性麻痺など)を呈する.身体所見では,リンパ節腫脹,肝脾腫および腫瘍細胞の骨髄浸潤に起因する貧血と血小板減少を認めることがある.IgMパラプロテインにより凝固因子が抑制されることにより,出血傾向が強度になる.骨髄腫に比べて腎障害の頻度は低い.
検査成績
 血清総蛋白および血清IgMの上昇(通常3.0 g/dL以上)がある.血清蛋白電気泳動でγ~β領域にMスパイクを認める(図14-10-22).血清免疫電気泳動および免疫固定法(図14-10-23)でIgMのκあるいはλのM蛋白を検出するが,κの頻度が4倍高い.末梢血液所見では,骨髄腫に比べて正球性正色素性貧血,赤血球の連銭形成(rouleaux formation),Coombs試験陽性をきたす頻度が高く,腫瘍細胞を認めることがほとんどである.骨髄穿刺検査では形質細胞様Bリンパ球が有核細胞の10%以上を占め,細胞表面抗原の解析では,IgM,CD19,CD20,CD22でまれにCD5であり,CD10,CD23である.末梢神経障害をきたす症例の半数程度に血中ミエリン関連糖蛋白を検出する.
診断
 血清中にIgMパラプロテイン(通常3.0 g/dL以上),骨髄中に形質細胞様Bリンパ球の増加(骨髄有核細胞の10%以上)を認め,IgMパラプロテインを認める基礎疾患(慢性リンパ性白血病,悪性リンパ腫など)を認めない場合は確定診断に至る.眼底所見における網細静脈のソーセージ様拡張と蛇行は,過粘稠度症候群の診断に有用である.
治療・経過・予後
 多くの症例で緩慢な経過を示すため,治療を必要としないことが多い.生存期間中央値は,骨髄腫と同様で50カ月間以内である.死因は感染症や出血などが多い.貧血が中等度以上であれば,フルダラビンやクラドリビンなどの抗癌薬を用いた化学療法を行うことが多い.化学療法の奏効率は80%程度であり,生存期間中央値は3年間以上である.腫瘍細胞はCD20であるため,抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)の単独投与あるいは抗癌薬との併用投与の有効性も報告されている.骨髄腫と同様にボルテゾミブ,レナリドミドなどの新薬にも期待がかかる.過粘稠度症候群を呈している症例には,血漿除去療法や血漿交換療法を行う.これらの効果は一過性であるが,特に出血傾向と精神神経症状の改善に有効である.[松永卓也]
■文献
Hanamura I, et al: Frequent gain of chromosome band 1q21 in plasma-cell dyscrasias detected by fluorescence in situ hybridization: incidence increases from MGUS to relapsed myeloma and is related to prognosis and disease progression following tandem stem-cell transplantation. Blood, 108: 1724-1732, 2006.
Harada H, et al: Phenotypic difference of normal plasma cells from mature myeloma cells. Blood, 81: 2658-2663, 1993.
Malpas JS, Bergsagel DE, et al: Myeloma, pp1-581, Oxford University Press, Oxford, 1995.

原発性マクログロブリン血症(その他のパラプロテイン血症の腎障害)

(4)原発性マクログロブリン血症(primary macro­globulinemia)
 IgMを分泌する形質細胞の腫瘍性増殖により,モノクロナールIgMからなるパラプロテイン血症をきたす疾患であり,Waldenströmマクログロブリン血症ともよばれる【⇨14-10-20)-(2)】.IgMは5量体構造からなる分子量約100万の巨大な蛋白である.血中の過剰なIgMにより過粘稠症候群をきたし,腎血流,糸球体濾過値の低下を生じたり,係蹄内にIgMによる血栓様沈着を生じたりする.ALアミロイドーシスの原因になることもある.[廣村桂樹・野島美久]
■文献
原 茂子,他:クリオグロブリン血症.日内会誌,94: 58-66, 2005.
小松田 敦,他:単クローン性免疫グロブリン沈着症.別冊日本臨牀,腎臓症候群(第2版)下,18: 435-438, 2011.
田口 尚:細線維性糸球体腎炎/イムノタクトイド糸球体症. 腎生検病理アトラス (日本腎臓学会・腎病理診断標準化委員会 日本人病理協会編),pp163-167,東京医学社,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 の解説

原発性マクログロブリン血症
げんぱつせいマクログロブリンけっしょう
Primary macroglobulinemia
(血液・造血器の病気)

 多発性骨髄腫と異なり、IgM型のM蛋白が検出されることが特徴の疾患で、リンパ節腫脹や脾腫(ひしゅ)(脾臓のはれ)をしばしば認め、悪性リンパ腫に近い疾患と考えられています。

 IgM型M蛋白が増加すると、血液の粘りが強くなって流動性が低下するため、過粘稠度(かねんちゅうど)症候群と呼ばれるさまざまな症状を来してきます。とくに脳血管の循環障害のために頭痛、運動失調、めまい、意識障害などが起こってきます。過粘稠度症候群が起こった場合には、血漿(けっしょう)交換が適応となります。

 化学療法としてシクロホスファミドの内服などを行いますが、多発性骨髄腫と同様、治癒が得られにくいことが知られています。最近、プリン誘導体(フルダラビンなど)やリツキシマブの有効性が海外より報告されてきています(国内では保険適用外です)。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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