北極星(読み)ほっきょくせい(英語表記)polar star

精選版 日本国語大辞典 「北極星」の意味・読み・例文・類語

ほっきょく‐せい ホクキョク‥【北極星】

天の北極付近に位置する明るい星。現在は天の北極と約一度離れた所にある光度二・〇等の小熊座のα(アルファ)星がこれに当たり、方位を定めるときの指針とする。また、仏教では神格化して妙見菩薩とし、北斗七星をその眷属とする。子(ね)の星。北辰。ポラリス。北極天。〔日本書紀兼倶抄(1481)〕

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デジタル大辞泉 「北極星」の意味・読み・例文・類語

ほっきょく‐せい〔ホクキヨク‐〕【北極星】

小熊座αアルファ天の北極近くに輝き、北の方角の目印になる。光度は2.0等で、連星。距離は433光年。ポラリス。北辰ほくしん

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改訂新版 世界大百科事典 「北極星」の意味・わかりやすい解説

北極星 (ほっきょくせい)
polar star

こぐま座のα星。ポラリスPolalisともいう。これはラテン名ステラ・ポラリスの略である。中世ヨーロッパではステラ・マリス(〈海の星〉の意)の呼称も流布していた。北の方位を知る重要な星のため,さまざまな別称がある。日本では,〈ねのほし〉,〈北のひとつぼし〉などの名で知られる。天の北極の位置は,歳差のため少しずつ移動する。3000~2000年ほど前の北極星はコカブ(こぐま座β星)であり,1万2000年後にはベガになるはずである。現在の北極星は,天の北極から満月二つ分(角度で約1度)ほど離れている。この星に注目していた漁師たちは,〈ねのほしは1晩に3尺くらい動く〉など,北極星も動くことを昔から知っていたらしい。なお,北極星の高度は,その土地の緯度に等しい。概略位置は赤経2h32m,赤緯+89°16′。口径6cmクラスの望遠鏡でも分離可能な二重星で,主星は2.0等,スペクトル型F7の超巨星である。18秒ほど離れた伴星は8.2等,引力的に結合している連星である。さらに,主星自身が分光連星であることがわかっている。その伴星は,質量半径ともに太陽の2倍くらい。距離は約466光年。
執筆者:

北辰ともいい,中国では見かけ上不動の恒星で,天空の星座がこの星を中心として回転することから,古来方位を定めるのに利用されるとともに,もっとも尊貴な星として崇拝されてきた。《史記》天官書などの記述によると,北極星は天帝太一神の居所であり,この星を中心とする星座は天上世界の宮廷に当てられて紫宮,紫微宮とよばれ,漢代には都の南東郊の太一祠においてしばしば太一神の祭祀が行われた。その後,讖緯(しんい)思想(讖緯説)の盛行につれて,後漢ころには北辰北斗信仰が星辰信仰の中核をなすようになり,北辰は耀魄宝(ようはくほう)と呼ばれ群霊を統御する最高神とされた。これをうけた道教では,北辰の神号を北極大帝,北極紫微大帝もしくは北極玄天上帝などと称し,最高神である玉皇大帝の命をうけて星や自然界をつかさどる神として尊崇した。また,北方癸地にあるとされた道教の冥府羅鄷都(らほうと)の支配者である北大帝信仰と習合して,天界,人界,冥界の三界を総宰する神格とされるようになった。

 北辰と並んで盛んであった北斗信仰との混同習合も早くから見られる。北斗七星は北辰の命をうけて人間の寿夭禍福をつかさどり,人は生年の干支によって決まる北斗の中の本命星(属星)によって命運を支配されると考えられた。そこで,北斗神が地上に降臨して人間の行為の善悪を伺察(しさつ)し,寿命台帳に記入する庚申,甲子あるいは月の3日,27日の両日に北辰北斗の醮祭(しようさい)(星祭)をして国家安寧(あんねい),長寿福禄,攘邪却災を祈った。さらに後世,玉皇大帝,紫微大帝,北斗七神は斗姆から生まれた兄弟神とする斗姆信仰も行われ,《北帝説豁落七元経》など多くの経典が説かれた。

 一方,仏教でも早く《七仏八菩薩所説大陀羅尼神呪経》が北辰を妙見菩薩とし,その神呪(しんじゆ)を称えることで国家護持の利益を得られることを説くが,とくに唐代の密教は道教の影響を強く受けた北辰北斗信仰を説いた。《北斗七星延命経》などは道仏混淆(こんこう)のあとをもっともよく示す宗教経典である。密教の北辰北斗信仰はやがて日本にもたらされたが,東密では北辰を妙見菩薩,台密では尊星王と呼び,北斗法,妙見供,尊星王法などと称する修法を盛んに行って,国土安寧,玉体安穏を祈願した。宮中では,平安時代以後,元日の四方拝に際して天皇みずから北斗の神号を称え,北辰に向かって属星を拝し,毎年3月3日と9月3日の両日には北辰に灯を献ずる御灯,北辰祭を行った。また,陰陽寮では病気や天変地異に当たって北辰を祭る玄宮北極祭をしばしば行うなど,密教,道教の北辰北斗信仰に基づく行事が盛んであった。また,民間でも北辰祭が行われたことは,796年(延暦15)以降風紀紊乱(びんらん)を理由とする禁令がたびたび出されていることから知られる。この北辰北斗信仰は神道にも取り入れられて,各地に北辰社,妙見社などと称する祠が建てられ,各地の寺院の北斗堂,妙見堂と並んで,民間における北辰北斗信仰のよりどころとなった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「北極星」の意味・わかりやすい解説

北極星
ほっきょくせい
Polaris

こぐま座のα(アルファ)星。天の北極(地球自転軸を北側に延長した方向)のすぐ近くに位置する明るい星なので、この漢名がある。別の漢名「北辰(ほくしん)(辰は星の意)」も古くから日本に伝わり、このほかに和名としては「子の星(ねのほし)(子は十二支で北のこと)」「一つ星(ひとつぼし)」などがある。英語のポラリスは「極の星 stella polaris」のラテン名に由来。日周運動でほとんど動かず、いつもほぼ真北に見えているので、昔から方位を定めるのに利用されてきた。実視等級はほぼ2.0等で、距離は約430光年。天球上の位置は2000年分点で、赤経2時32分、赤緯プラス89度16分である。望遠鏡で見ると、ごくそばに暗い8.6等星が見え、実視連星を形成する。伴星(B星)はスペクトル型F3の主系列星(表面温度約6800K、質量は太陽の約1.5倍、半径は約1.4倍)である。さらに、北極星の本体自身が分光連星であり、主星(A星)は、スペクトル型F8の超巨星(表面温度約5800K、質量は太陽の6倍程度、半径は約80倍)、伴星(P星)は、スペクトル型F0の主系列星(表面温度約7300K、質量は太陽の約1.5倍程度、半径も約1.5倍)である。A星とP星は公転周期30.46年で離心率0.63の楕円(だえん)軌道を描いて互いに回っている。主星のF8型超巨星は脈動変光星で、3.9697日の周期で膨張・収縮を繰り返している。約100年前は変光幅が0.15等ほどあったが、最近では0.05等程度に減少し、また脈動周期もこの100年間で5分余り長くなった。北極星は全体として毎秒17キロメートルで太陽系に近づきつつある。地球の歳差運動のため地球の自転軸の方向(天の北極)は天球に対して徐々に移動している。天の北極の位置は2000年の時点で北極星から角度で約4分の3度離れているが、2100年ころには約2分の1度まで近づき、その後はしだいに北極星から離れてゆく。そのため北極星が北極の星としての意味をもつのは、あと1000年ぐらいであろう。

[岡崎 彰]


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百科事典マイペディア 「北極星」の意味・わかりやすい解説

北極星【ほっきょくせい】

こぐま座のα星。ポラリスとも。二重星で,主星は2.0等の超巨星。伴星は8.2等。また主星自体も分光連星。真の北極から約1°を隔てて日周運動をし,北の方角の目印となる。天の北極は歳差のため移動し,今から5000年前にはりゅう座のα星(トゥバン)にあり,1万2000年後にはこと座のα星(ベガ)にくる。
→関連項目こぐま(小熊)座

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「北極星」の意味・わかりやすい解説

北極星
ほっきょくせい
polestar; Polaris

こぐま座α星 (ポラリス ) 。現在,天の北極からわずか1°近くの位置にあり,天の北極を中心に小さい半径で日周運動をしている。昔から航海の目標として最も重要な存在であった。比較的明るく,光度 2.0等。ただし歳差運動によって天の北極が移動するので,時代がたつと北極星は移り変る。 5000年前にはりゅう座α星が北極星で,1万 2000年後にはこと座α星 (ベガ,織女星) が北極星になると計算されている。

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デジタル大辞泉プラス 「北極星」の解説

北極星

サッポロビールが販売する焼酎の商品名。自社製造のコーン原料の焼酎と福岡県の自社焼酎蔵、楽丸酒造製造の麦原料の焼酎をブレンドした甲類焼酎。

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世界大百科事典(旧版)内の北極星の言及

【九星】より

…九星とは,一白水星,二黒土星,三碧木星,四緑木星,五黄土星,六白金星,七赤金星,八白土星,九紫火星をいい,これらの星が九宮を移動することによって生じる運勢の変化にもとづいて方角の吉凶などを占う。この文献的初出は漢代の《易緯乾鑿度(えきいけんさくど)》とその鄭玄(じようげん)の注で,そこには太一神(北極星の神格化)が八卦に配当された宮殿を順次めぐってゆくもようが記されている(太一九宮の法)(図)。唐代には,太一神をはじめとする九宮貴神の壇をもうけて大がかりな祭りを行い,また九宮貴神の巡行にもとづいて禍福を占った。…

【太一】より

…〈大一〉〈太乙〉また〈泰一〉とも表記される。《荘子》などでは〈道〉の同義語として用いられているが,《淮南子(えなんじ)》天文訓に〈紫宮は太一の居なり〉といい,鄭玄(じようげん)が〈太一は北辰の名なり〉というように,やがて天界の紫微宮を居所とする北極星の神名となり,漢代では宇宙の最高神と考えられた。〈天皇大帝〉ともよばれて経書にあらわれる〈昊天(こうてん)上帝〉とも同一視される。…

【地球】より

…四季の別が生じるのはこのためである。 自転軸の空間的方向に北極星が位置する。しかし地球が回転楕円体であることと,自転軸が公転軌道面に対して傾いていることにより,太陽の引力によって偶力が生じる。…

【トゥバン】より

…竜の尾に近い位置にあり,4等星であまり目だたない。しかし,この星は前2700年ごろの北極星であった。地球の歳差運動のため,天の北極はほぼ2万6000年を周期に天球上を移動する。…

【北斗七星】より

…古来,斗柄の指す方角によって時刻を測り季節を定める重要な星であった。また,道教の星信仰の中では,順に貪狼,巨門,禄存,文曲,廉貞,武曲,破軍星と呼ばれ,北極星,司命神信仰と習合して人間の寿夭禍福をつかさどる神とされた。特に,人間の命運は生年の干支で決まる北斗の中の本命星の支配下にあり,北斗神が降臨して行為の善悪を司察し寿命台帳に記入する庚申・甲子の日に醮祭(しようさい)(星まつり)することで,長寿を得,災阨(さいやく)を免かれると考えられた。…

【北極】より

…地球の自転軸が歳差や章動,極運動などにより空間に対して変動するため,恒星に対する天の北極の位置は変化する。現在(1985)は赤緯約+89゜のところに2等星のこぐま座のα星があり,これを北極星と呼んでいる。【古川 麒一郎】
〔地球の北極〕

【北極地域】
 北極は狭義には地軸の北端の北緯90゜の北極点North Poleを指す。…

※「北極星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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