交易雑物(読み)こうえきぞうもつ

精選版 日本国語大辞典 「交易雑物」の意味・読み・例文・類語

こうえき‐ぞうもつ カウエキザフモツ【交易雑物】

〘名〙 令制下、政府官稲代価に支払って、諸国から調進させた織物海産物砂金、麦、豆などの類。交易
※熱田神宮古文書‐承和一四年(847)三月七日・太政官符案「昼夜追役、或班給交易雑物并正税、不斎限、強行刑罸、自余濫行不計」

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改訂新版 世界大百科事典 「交易雑物」の意味・わかりやすい解説

交易雑物 (こうえきぞうもつ)

日本古代に諸国が購入して朝廷へ貢上した種々の物資律令には,国造貢献物の系譜をひくと推定される土毛交易(その土地の産物を購入して貢上する)制度と,朝集使貢献物(地方に赴任した国司が上京する際に,その国のめずらしい高級品を交易して貢上する)制度とが規定されていたが,奈良時代の中ごろには両者は融合して,諸国が正税(しようぜい)で雑物を購入して貢上する交易雑物の制度となる。この交易雑物の制は8世紀後半から9世紀前半にかけて急速に拡大し,《延喜式》には国ごとに貢上すべき交易雑物の品目数量が詳細に規定され,その総量は調の総量のほぼ4分の1ないし5分の1に相当した。その品目をみると,律令では朝集使貢献物とされていた錦・綾・羅など高級織物が調の品目となっている反面,律令では調庸の品目であった絹・絁(あしぎぬ)・布などが,大量に交易雑物のなかにふくまれているので,交易雑物の制は調庸の不足を補う機能をはたしていたものと推定される。交易雑物の財源は出挙(すいこ)の利稲であったから,交易雑物の拡大は,調庸制を出挙制で補ったものとも考えられる。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「交易雑物」の解説

交易雑物
こうえきぞうもつ

古代に諸国が正税(しょうぜい)で購入して進上する物品。8世紀前半の天平年間に郡稲が正税に混合されると,中央で必要な品を国衙(こくが)の正税で交易して進上させるようになり,諸国正税帳に多くの記事が残っている。8世紀後半~9世紀前半に交易雑物制は拡大し,延喜民部式に各国の毎年の品目・数量を規定しているが,調の総量の2割強にも及ぶ。交易制は調庸制と2本立てで,調庸で納入されない必要物品を調達する質的な補完制度といえるが,「延喜式」には絹・布など調庸と同じ品目も含まれ,中央政府の需要と調庸による貢納との量的な差を補填する面もあった。

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世界大百科事典(旧版)内の交易雑物の言及

【調】より

…717年(養老1)に調副物と中男の調を廃止し,国郡司が中男を役して中央官庁で必要とする物品を作ったり,集めたりする中男作物(ちゆうなんさくもつ)の制を施行した。 調は律令財政の最も重要な収入源であり,官人の給与(位禄,季禄)にもあてられたので,その品質の低下や未納に対して,政府は厳しい態度でのぞんだが,品質の低下や未納が増加してくると,それを補うために,交易雑物(ぞうもつ)(出挙(すいこ)の利稲で調庸物に相当する物品を購入する)制度が展開していった。823年(弘仁14)に西海道諸国で試行された公営田(くえいでん)の制は,収穫稲によって調庸物を購入して貢上させるもので,中央政府と国衙との間では調庸の現物貢上の原則が保持されているが,国内での調庸の徴収は,課丁から直接に徴収するという律令の原則が修正されている。…

※「交易雑物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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