一口(読み)ひとくち

精選版 日本国語大辞典 「一口」の意味・読み・例文・類語

ひと‐くち【一口】

〘名〙
① 一度に全部を口に入れること。かなりの分量をひとのみにすること。
※伊勢物語(10C前)六「鬼はやひとくちに食ひてけり」
② 一回、口に入れること。また、その分量。また、少しばかり飲み食いすること。
※栂尾明恵上人伝記(1232‐50頃)下「一口含み給ひて」
③ (形動) 酒を好んでよく飲むこと。また、そのさま。
浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)一「一口(ヒトクチ)なる末社あつめして、下戸ならぬこそおのこはよけれと」
④ まとめて簡単に表現すること。また、異質のものを同一次元に扱うこと。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「あなあさましや。ひとくちにてもはた。人は位かは。有様、する事、するわざなどこそ」
※雲形本狂言・竹の子(室町末‐近世初)「笋と牛の子と一口(ヒトクチ)にはいはれまい」
※嚼氷冷語(1899)〈内田魯庵〉「売文根性の堕落文士が多いために真摯な操觚者までが一(ヒ)と口(クチ)に軽蔑されるは迷惑の沙汰で」
⑤ 一つのことば。短い、ちょっとした文句。一区切りの文句。ひとこと。
※閑居友(1222頃)上「ただ一くちのたまはせよかし」
⑥ 鞍(くら)、轡(くつわ)、釜(かま)など一つ。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑦ 株、寄付などの単位。一つのまとまり。
ブルジョア(1930)〈芹沢光治良〉四「一口一法以上。早くお賭け下さい」
一部分分け前。割当。
※落紅(1899)〈内田魯庵〉一「這般(こん)な巧エ儲があるもんでねエから、俺は土師君に一(ヒ)と口(クチ)乗らねエかと」

いっ‐こう【一口】

〘名〙
① 一つの口。同じ口。転じて、人ひとり。一人。〔日葡辞書(1603‐04)〕〔後漢書‐虞詡伝〕
② 一語。一言。
高野山文書‐建治元年(1275)一二月日・阿氐河庄地頭湯浅宗親陳状案「雑掌都以不一口陳詞之上者、承伏条勿論」 〔左思‐魏都賦〕
③ 口をそろえて言うこと。同じ口ぶりで言うこと。
浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)三「お家の柱をかぶりくらふ佞人(ねいじん)と、此和田兵衛を一口の、御挨拶こそ心外なれ」
④ 食物などのひとくち。ちょっと口にすること。〔孟郊‐勧善吟〕
⑤ 刀剣や、口のある器具などの一つ。いっく。〔漢語字類(1869)〕〔晉書‐載記三・劉曜〕

いっ‐く【一口】

〘名〙
① 一つのくち。転じて、人ひとり。または、生き物一匹。いっこう。
東寺百合文書‐る・応永三一年(1424)一二月二四日・最勝光院方評定引付「仍今度闕分二口内、一口賢我僧都」
② 一人分の給料。
※東寺百合文書‐る・応永七年(1400)九月二六日・最勝光院方評定引付「一口之半分可宛之由」
③ 口のあいている器物など一つ。一合。
延喜式(927)一「短女杯、盞各一口」
④ 武器、農具などの刃物の一丁。
※延喜式(927)一「楯一枚、槍鋒一口、庸布一丈四尺」

ひとつ‐くち【一口】

〘名〙
① 一か所の口。
話し手が、聞き手と対等であるかのような物言いをすること。
※落窪(10C後)一「我等とひとつ口に、なぞいふは」
③ 口をそろえて言うこと。異口同音に言うこと。それぞれの言うことが違わないこと。
※古文真宝笑雲抄(1525)七「和而とは人々が一つ口に云ぞ」
④ 同列に扱っていうこと。ひっくるめていうこと。ひとくち。
※浮世草子・男色大鑑(1687)一「ひとつ口にて、女道衆道を申事のもったいなし」

いもあらい いもあらひ【一口】

京都府南西部、久御山町の地名。干拓前の巨椋(おぐら)池の水が淀川に向かうところで、渡船場として知られ、淀川三渡しの一つだった。建武三年(一三三六足利尊氏が天皇側と戦った。三方が沼で一方に入口があったので一口とあてられたか。
※平家(13C前)一「淀、いもあらい、河内路をば」

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デジタル大辞泉 「一口」の意味・読み・例文・類語

ひと‐くち【一口】

飲食物を1回口に入れること。また、その量。「一口で食べてしまう」「一口お召し上がりください」
まとめて手短に言うこと。「一口で言えばこうなる」
少し物を言うこと。一言ひとこと。「一口口を挟む」
株・寄付などの一単位。「一口五千円の寄付」
多人数で組んでする仕事などの、一人分の割当て。「一口乗る」
[類語]一言ひとこといちげんいちごん一声一言半句片言隻語一字一句

いっ‐こう【一口】

一つの口。同じ口。また、一人の人。いっく。
刀剣や口のあいている器物の一つ。
「蝋塗のきらめく―の短刀なり」〈紅葉金色夜叉
同じように口をそろえて言うこと。
「お家の柱をかぶりくらふ佞人ねいじんと、此の和田兵衛を―の、御挨拶こそ心外なれ」〈浄・源頼家源実朝鎌倉三代記
ひとくち。
「―の食」〈地蔵菩薩霊験記・五〉

いっ‐く【一口】

一つの口。転じて、人ひとり、また、生き物1匹。いっこう。
釜など口のあいている器物や、刀剣など刃物の一つ。→

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日本歴史地名大系 「一口」の解説

一口
いもあらい

[現在地名]久御山町大字東一口・大字西一口

御牧みまきの北部、巨椋おぐら池西岸の大堤防辺りをさす地名。中世には芋洗と記した。用字が変わる時期は不明だが、近世にはもっぱら一口が用いられており、「山城名勝志」は地名由来を「古老云昔三方ハ沼ニシテ一方ヨリ入口有之故一口ト書ト云」と記す。しかしこれは一口の用字に基づいてのものである。

芋洗の初見は「吾妻鏡」承久三年(一二二一)六月七日条で

<資料は省略されています>

とあり、承久の乱に際し、幕府方の軍勢が配置されている。宝治元年(一二四七)に没した浄土宗西山派の祖証空の書状(年欠二月五日付、誓願寺文書)には

<資料は省略されています>

とみえる。また「平家物語」巻四(橋合戦)に、宇治橋での戦の時、平家の侍大将上総守忠清は大将軍平知盛に

<資料は省略されています>

と進言、これをうけた下野国住人足利又太郎忠綱が「淀・いもあらひ」へ向かうべく宇治川を渡河したことが記されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「一口」の意味・わかりやすい解説

一口
いもあらい

京都府南部、久世(くせ)郡久御山(くみやま)町の一地区。中世には芋洗と記された。干拓前の旧巨椋(おぐら)池の排水口に位置し、三方が沼に囲まれていたので、一口の字を用いたという。集落は旧巨椋池西岸の堤防の片側に東西に細長く並び、特色ある家並みを残している。かつては淡水漁業が盛んで、江戸時代には淀(よど)川一帯の漁業権を有していた。巨椋池排水幹線(前川)堤の両岸には200本のサクラ並木があり、開花時には花見の人でにぎわう。また、第二京阪道路巨椋池インターチェンジがある。

[織田武雄]

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