ロッククライミング(英語表記)rock-climbing

翻訳|rock-climbing

精選版 日本国語大辞典 「ロッククライミング」の意味・読み・例文・類語

ロック‐クライミング

〘名〙 (rock-climbing) 登山で、岩壁や岩場をよじ登ること。高度な登攀(とうはん)にはザイルハーケンカラビナなどの用具を用いる。岩登り
※ぽんこつ(1959‐60)〈阿川弘之〉山掘り「二人の姿は小さく、岩場でロッククライミング訓練をしている登山者のように見えたかも知れない」

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デジタル大辞泉 「ロッククライミング」の意味・読み・例文・類語

ロック‐クライミング(rock climbing)

岩壁をよじ登ること。また、その技術。ハーケンあぶみなどの道具を積極的に用いるエイドクライミング人工登攀とうはん)と、確保以外には道具をいっさい用いないフリークライミングとがある。岩登り。クライミング。

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改訂新版 世界大百科事典 「ロッククライミング」の意味・わかりやすい解説

ロッククライミング
rock-climbing

岩登りともいう。ヨーロッパアルプスに興った近代スポーツ登山の中で生まれ,その登攀(とうはん)の技術や考え方は,世界の登山史の中枢を占めて現代に至っている。

19世紀を迎えるとヨーロッパでは山岳探究の興味が高まり,その後半期にはヨーロッパ・アルプスの名の知られた山頂のほとんどに登山者の足跡が印された。そしてこのころから,自分の体力や技術だけを頼りにしたガイドレス登山が行われ,困難や危険を承知のうえで,人の足跡のない新しいルートからの登山を喜びとし,そのルートの開拓が行われた。必然的に,鋭い岩稜や急峻な岩や雪の壁を登行するテクニックが要求され,岩登りに優れた能力を持つクライマー(登攀家)が輩出するようになった。20世紀になると,世界各地の未踏の高峰に数多くの遠征登山が行われたが,同時にまた,マッターホルン,グランド・ジョラスやアイガーなど,危険で登攀不可能といわれていた大岩壁が完登されていった。第2次大戦後,世界で初めて8000m峰のアンナプルナの登頂に成功し,続いて最高峰エベレスト山頂にも人間の足跡が印された。軽量でじょうぶな化学繊維による新しい装備や改良した酸素器具が使われ,一面では科学力の成功ともいわれたが,この優れた機能性をもつ衣服,テント,登攀用具は,冬の寒冷や悪天候の中での困難な登攀を可能にし,岩登りの分野を独立した形で定着させた大きな要因になったともいえよう。

 険しい岩場が少ない日本では,登山に岩登り技術はほとんど必要としなかった。1921年槙有恒がアイガー東山稜の初登攀に成功して帰国したのが端緒で,近代アルピニズムが導入されたといわれるが,そのほかにも,少数の大学出身のクライマーや関西につくられた山岳会のメンバーの積極的な研究や啓蒙によって,岩登りへの意欲は一般に広がった。代表的な岩場はきわめて短期間に登られたが,技術的には,ヨーロッパ・アルプスのそれに比すべくもなかったといえよう。戦後,急速に立直りをみせた日本登山界は,優秀な用具や装備とそれに伴う新しい技術の輸入や,56年のマナスル初登頂の影響などもあって多くの登山愛好者を生んだ。輸入された用具の普及とあいまって岩登りが流行し,とくに,埋込みボルトの使用とダブルロープ技術による人工登攀によって,困難な垂直壁や岩びさしなどの登攀が可能になり,多くの新しいルートがつくられたが,狭い岩場で煩雑な初登ルートが重なり合うような弊も生まれた。しかし,これらのルートでは厳冬期の困難な登攀が続いて実行された。また,意識的に困難なルートを継ぎ,途中で露営をしながら長距離の岩登りを行う日本独特ともいえる継続連続)登攀が行われた。そして,結果的にはこれがそのまま,1960年代後半から70年代にわたっての,ヨーロッパ・アルプス岩壁での日本人クライマーたちの活躍につながった。

 1960年代になってアメリカのヨセミテなどにみられるように,困難度の高い岩壁登攀そのものを目的にしたものや,旧ソ連(現ウクライナ)のクリミア半島ヤルタの黒海に面した岩場で76年から隔年に開催されてきた,設定された困難なルートでの登攀スピードを争う国際競技会や,河原にある大岩など小範囲の壁に自分で制約を設け,微妙なバランスや摩擦を用いて登るボルダーリングboulderingなど,岩登りそのものの多様化が進み,ヒマラヤなどの高所登山の中での岩壁登攀とあいまって,いっそう岩登りそのものを目的とするようになり,新しい技術的な展開をみせている。

岩登りも足で歩くことが基本である。岩場にあるフットホールド(足がかり)につま先で立ち,ハンドホールド(手がかり)を利用してつねに姿勢を鉛直に保つ。手足の3点で体を支持(3点支持)した状態で,バランスを保ちながら柔軟な動作でリズミカルに移動するのが原則である。クラック(岩の割れ目)の登攀では,腕やひざ,背などによる摩擦を積極的に利用してのし上がる方法もある。登攀の手段に用具を使わないこのような登り方をフリークライミング(自由登攀)という。クライマーは,普通,岩登りに適した服装の上に,墜落時の衝撃を分散緩和させるためのボディハーネス(登攀用ベルト)を着け,頭部を保護するためのヘルメットをかぶる。冬の登攀には堅牢で保温性のある登山靴が用いられるが,無雪期には,軽量で摩擦性の高い柔軟な底をもつクレッターシューズ(岩登り靴)を使う例が多く,また,簡便なトレーニングシューズを用いる者もある。

 パーティを組んだ2人または3人のクライマーは,墜落の危険を避けるためにザイルSeil(登攀用ロープ)を両端部で互いに自分のボディハーネスに連結(アンザイレン)し,交替で登攀するパートナーを確保(ビレーbelayまたはジッヘルsicher)しあいながら前進する隔時登攀(スタカートクライミングstaccato-climbing)を行うのが普通である。確保者は,自分の確保が失敗した場合,パートナーの墜落に引き込まれて墜落しないようにあらかじめ自己確保(アンカーanchor)をしたうえで,基本的には,自分の肩や腰にザイルを回して制動操作する確保(ボディビレーbody belay)を行うことが多い。とくに注意すべき点は,トップ(先頭者)が墜落したときは衝撃エネルギーがきわめて強く,確保に失敗して悲惨な結果を招きやすいことである。これを防ぐためには,墜落の瞬間にザイルを流し出しながら徐々に制動を加え,摩擦によって力のエネルギーを熱エネルギーに転換し吸収する制動確保(ダイナミックビレーdynamic belay)を行うことが必要である。そのために,確保者は制動用の手袋を使うのが普通であるが,この確保をより容易で確実にする目的で各種の制動器具を使う例も多い。

 トップを登る登攀者もまた,墜落時の衝撃を少なくするため,ルートの途中に確保支点(ビレーイングピン)をつくり,カラビナを介したザイルをセットしていく(ランニングビレーrunning belay)。これによって,力は直接的に確保者に伝わることもなく,支点のつくる角度によって生じる摩擦やザイルそのものの弾力性が墜落時の衝撃力を弱めることになる。確保支点は,小さな岩の割れ目(クラック)にピトンpiton(頭部に輪をもった鉄釘,ハーケンともいう)を打ち込んでカラビナを掛けるのが一般的で,この2種の用具に打込み用のハンマーを加えて岩登り用の三つ道具と呼ぶ。戦後発明された埋込みボルトは,クラックのない垂直の岩壁や岩びさし(オーバーハング)にも確保支点をつくることができるため,2本のザイルでつり上げ確保されたトップが,あぶみを利用して困難なルートを次々に開拓することができたが,このように,用具を登攀の手段として積極的に使う方法を人工登攀(アーティフィシャルクライミングartificial climbing)という。現在,クラックの形状に応じて適当な大きさのクライミングナッツ(チョック)やフレンズを差し込んで,自在に働く複数のカムの力でビレーイングピンとして強い効果を上げる器具が開発され,登攀者の技術によって多様に機能し,また,回収も容易で何度でも使用でき,岩壁に破壊や変形の跡を残さずに済むために,使用者が急増している。

 岩登りでは,装備や器具を使う技術が重要視されるが,第一には,自由登攀の技術を十分に身につけ,用具の性能を理解したうえで,訓練を重ねることによって初めて安全につながる登攀技術を身につけることができる。
登山
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百科事典マイペディア 「ロッククライミング」の意味・わかりやすい解説

ロッククライミング

岩登り。18世紀の登山は尾根を登る程度だったが,19世紀に入ると,ヨーロッパ・アルプスに興った近代スポーツとしての登山思想(アルピニズム)を背景に,アルピニストはより困難な登山形態を求めるようになり,ロッククライミングが生まれた。普通数人でパーティーを組み,互いにザイルで確保し合い,三つ道具(ハーケンカラビナ,ハンマー)を使って登る。また,近年登攀(とうはん)道具を用いず(墜落防止のザイルは使用),岩壁を登るフリークライミングも盛んになっている。→人工登攀
→関連項目ゲレンデ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロッククライミング」の意味・わかりやすい解説

ロッククライミング
rock climbing

岩登りのこと。岩場をよじ登る登山技術の一つ。もともとは山頂に至る過程で困難な岩場を克服するための技術だったが,1920年代頃から岩壁や岩峰そのものを目的とするスポーツとして,広義の登山から独立した行為をさすようになった。通常数百mまでの岩壁を対象とするが,なかには 1000m,あるいはそれをこえるスケールの壁もあり,その登攀をビッグウォール・クライミング (大岩壁登攀) と呼ぶ。技術的には壁面の凹凸や割れ目 (クラック) を手がかり足がかり (ホールド) として攀じ,途中ハーケン (独,英仏ではピトン) や埋め込みボルトなどを岩に打ち込んでザイルをかけて安全を確保する。ホールドのみで前進できないような箇所ではこれらの支点に鐙 (あぶみ) をセットして登るエイドクライミング (人工登攀) が用いられてきたが,1960年代半ばからアメリカを発信地として,肉体の鍛練と技術の向上によって人工手段に頼らないフリークライミング (自由登攀) が勃興し,50m以内の短いルートはほとんどすべてがフリークライミングされるようになった。同時に,岩にきずをつけず片手でセットできるチョック類も発達した。現代では,90゜以上のオーバーハングさえフリーで登られている。日本では 1980年を契機としてフリークライミング・ブームが起こり,世界レベルのクライマーも何人か出現した。 1989年には日本フリークライミング協会 JFAの設立をみた。

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世界大百科事典(旧版)内のロッククライミングの言及

【ケービング】より

… ケービングは,洞窟(鍾乳洞,溶岩洞,氷河洞など)という限られた空間で,しかも暗やみで行動するスポーツであるため,身体保護のための着衣(つなぎ服がよい)やヘルメットなどの装備を必要とするが,特別のケービング技術はない。ほふく前進,懸垂下降といった技術やラダー(ワイヤばしご)の使用など,ロッククライミングの地底での応用である。また,地底湖などでは,ダイビングの技術・装備も必要となる。…

【登山】より


[登攀技術]
 岩壁・氷雪の登降には安全を確認するため多くの用具を使用しての技術が要求される。岩登り,あるいはロッククライミングといわれる。岩登りの基本は両手両足のうち3点をつねに安全な手がかりや足場に置き,一つだけを動かし腕に頼らず足で登る。…

※「ロッククライミング」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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