ルソン島(読み)ルソントウ(英語表記)Luzon Island

デジタル大辞泉 「ルソン島」の意味・読み・例文・類語

ルソン‐とう〔‐タウ〕【ルソン島】

Luzonフィリピンの北部を占める、フィリピン諸島中最大の島。首都マニラがある。1571年からスペイン植民地となり、鎖国前の日本人の往来もあった。面積約10万5000平方キロメートル。
[補説]「呂宋島」とも書く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルソン島」の意味・わかりやすい解説

ルソン島
るそんとう
Luzon Island

フィリピンの主島で、フィリピン群島最大の島。漢字では呂宋と表記される。同国北半部に位置し、面積は10万4684平方キロメートルで国土総面積の約35%、人口は約4000万(2000)で全国の約半数を占める。東は太平洋、西は南シナ海に面し、北はルソン海峡により台湾と、南はシブヤン海によりビサヤ諸島と隔てる。地形は複雑で、胴体部分は中央のセントラル、東のシエラ・マドレ、西のサンバレスの三条の山脈が並行して南北に走り、その間にルソン島の心臓部ともいえる中央大平原や、北のカガヤン平野を抱く。一方南東部からビコル半島にかけては、タール火山マヨン火山などの多数の活火山や湖水がある。海岸線は複雑で良港が分布する。気候は山脈によって支配され、一般に東側は降雨の季節性に乏しく、西側は雨期、乾期の交替が明瞭(めいりょう)である。降水量は東岸部、セントラル山脈およびサンバレス山脈で多く、カガヤン平野、中部ルソン平野など山脈に挟まれた部分で少ない。しばしば台風の被害を受けることがある。

 住民分布も複雑で多くの言語集団からなるが、大別してネグロイド系、プロト・マレー系、新マレー系のものが、それぞれ地域を異にして居住している。また新マレー系でも、キリスト教徒と非キリスト教徒は地域を異にする。居住の歴史は古く、北部ルソン西海岸、マニラ湾岸、バイ湖沿岸、ビコル地方はスペインの植民地化以前にもかなりの人口が存在していた。1571年マニラがスペインの植民地経営の根拠地とされたが、開発は19世紀以降急速に進められ、現在ではキリスト教徒としてのタガログ人が、全群島の指導権をもつに至っている。

 おもな産業は農業で、米が中部ルソン平野を中心に全域で栽培され、ほかに北部でタバコ、中部でサトウキビ、南部でココヤシがつくられている。またビコル半島のココヤシとアカバも重要な産物である。このほかマンガン、金、銅、クロムなどの鉱物資源が、主としてセントラル山脈中にみられる。道路網はマニラを中心に発達し、国道が南北両端にまで達している。鉄道も南はレガスピ、北はラウニオン州のサン・フェルナンドまで延びている。島はメトロポリタン・マニラ(マニラ首都圏)と28の州に分かれ、23の市が含まれている。

[別技篤彦]

歴史

ルソン島の低地部は、1570年代からスペインの植民地支配を受けた。それ以前にこの島に統一的な政治支配が成立した形跡は見当たらない。スペインは住民の言語の違いに基づいて州制度を設け、またこの島を三つの司教区に分けてカトリックの布教に努めた。3司教座はマニラと南部のヌエバカセレス(ナガ)、北部のヌエバセゴビア(ビガン)に置かれ、政教一致のスペイン体制下では、この3都市がルソン島統治の拠点となった。ただし、中央コルディエラ山脈地帯など山岳地域は交通が非常に困難だったので、スペインの支配はほとんど及ばなかった。ルソン島の経済発展は、18世紀後半まで概して停滞的だった。1782年から、カガヤン渓谷とヌエバエシハ、南北両イロコス、アブラ、ラウニオンの地域にタバコの強制栽培制度が実施され、政庁財政を大いに潤したが、そのために住民生活は著しく疲弊した。19世紀に入って、マニラが開港されると、各地で商品作物経済が進展した。中央ルソンや南タガログ地方ではサトウキビ栽培が、またビコール地方ではマニラ麻の栽培が盛んになった。そしてこの時期から、ヌエバエシハなどフロンティアへの移民が盛んになった。こうした経済発展を背景に、19世紀後半には植民地改革運動が起こり、1896年にはフィリピン革命が勃発(ぼっぱつ)した。革命の先陣を切ったのは、中央ルソンおよび南タガログ地方の8州だった。この革命過程で、フィリピン独立教会(アグリパヤニズム)が誕生し、北イロコス地方を本拠地にして全国的に広まった。

 20世紀に入ってアメリカの植民地支配が始まると、山岳地域にも中央政府の統治の手が伸び、小学校の建設、道路網の整備が全島的に進んだ。資本主義経済の影響が強まるにつれて、小農民や小作農の生産条件は劣悪化し、人口密度が高い中央ルソンは、1920年代以降60年代まで、もっとも過激な農民運動の温床となった。日本占領下で最強の抗日運動を展開したフクバラハップ(抗日人民軍)は、この農民運動を基盤に結成された。

[池端雪浦]

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改訂新版 世界大百科事典 「ルソン島」の意味・わかりやすい解説

ルソン[島]
Luzon

フィリピン群島中最も大きい島。漢字では呂宋と表記される。面積10万4687km2は国土総面積の約35%にあたる。東は太平洋,西は南シナ海に面し,北はルソン海峡により台湾と,南はシブヤン海によりビサヤ諸島と隔てる。島の北部から中部にかけてシエラ・マドレ,中央(セントラル)山脈,サンバレスの3本の山脈が南北方向に走って骨格を形成し,これらの間にカガヤン,中部ルソンの2大沖積平野が開ける。南部から南東のビコル半島にかけては大小の火山が林立し,その間に平野,盆地,丘陵が点在する。最高峰は中央山脈のプログ山(2934m)で,山容が最も美しいのはビコル半島のマヨン山(火山。2462m)である。気候は山脈によって支配され,西側では6~11月に南西モンスーンにより雨季がもたらされ,東側では12月~2月に多雨季が現れる。降水量は東海岸と中央山脈,サンバレス山脈の西側で多く,山脈にはさまれた部分で少ない。

 人口は約3500万(1995)で,フィリピン全体の約50%を占める。人口密度は約350人/km2で,北部西海岸,中部,南部,ビコル半島で高い。住民は多くの言語集団からなるが,主要なものだけでも北からイロコ,パンガシナン,パンパンゴ,タガログ,ビコルの五つに分かれる。主たる産業は農業で,稲作は中部ルソン平野を中心に全域に,換金作物としてのタバコは北部,サトウキビは中部,ココヤシは南部,マニラアサ(アバカ)はビコル半島に分布する。鉱物資源はカマリネス州の鉄,金,マンガン,サンバレス州のクロムと銅,中央山脈の金と銅が代表的なものである。工業はマニラとその周辺部に集中し,地方への波及はまだ小さい。北部西海岸,マニラ湾岸,バイ湖沿岸,ビコル半島にはスペイン人の到来までにかなりの居住がみられた。1571年にマニラがスペインの植民地支配の根拠地となったが,開発の波が全島に及ぶのは19世紀の商品生産展開以降であった。マニラを中心に道路網が発達し,南北両端まで国道が達する。鉄道はマニラから北のサン・フェルナンドと南のレガスピまでのびるが,道路交通ほどの重要性はない。島はメトロ・マニラ(首都圏マニラ)と28州に分かれ,そのなかに23の政令都市を含む。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルソン島」の意味・わかりやすい解説

ルソン島
ルソンとう
Luzon Island

フィリピン北部,フィリピン諸島最大の島。面積は 10万 4700km2で,国土の 37%にあたる。南北に長く,北部は中央をコルディエラセントラル山脈が南北に延び,東岸のマドレ山脈との間にカガヤン川の肥沃な谷がある。西岸はイロコス地方と呼ばれる人口稠密な海岸平野。中央部にはパンパンガ川,アグノ川の流れるルソン中央平野があって穀倉地帯をなし,マニラ湾岸に首都マニラが立地。南部はバタンガス半島,ボンドク半島,ビコル半島などから成り,火山が多い。熱帯季節風気候で,雨季は西側で5~11月,東側で 12月~2月。台風の通路にあたり,毎年各地でかなりの被害を出す。住民の大多数が農業に従事し,米,コプラ,サトウキビ,トウモロコシ,タバコ,マニラアサなどを多産。工業は農産物加工の小工場を主とするが,マニラには電子,電機などの近代的な工場もある。マニラを中心に平野部では交通,通信施設も整備されている。大きな言語集団としてタガログ,イロカノ,ビコル,パンパンガ,パンガシナンがあるほか,北部の山地には少数民族が住む。人口はフィリピン全体の 40%を占める。周辺にある 2000近くの小島を含めて 30州に分れる。州合計面積 10万 8169km2。同人口 2390万 796 (1980) 。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ルソン島」の解説

ルソン島
ルソンとう
Luzon

フィリピン諸島中最大の島
早くから中国と交渉があり,明代には呂宋の名で知られている。1521年マゼラン(マガリャンイス)が来航,65年総督レガスピが領有を宣言し,71年マニラが建設されて,フィリピン経営の拠点となった。

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世界大百科事典(旧版)内のルソン島の言及

【タガログ族】より

…フィリピンのいわゆる平地キリスト教民の一グループで,マニラを中心にルソン島中部・南西部の諸州,およびミンドロ島海岸平野部やマリンドゥケ島などに住み,タガログ語を話す。人口は1000万(1975)で総人口の23.8%を占め,セブアーノ族と並んでフィリピン最大の言語グループを形成している。…

※「ルソン島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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