ヤコウチュウ(読み)やこうちゅう

改訂新版 世界大百科事典 「ヤコウチュウ」の意味・わかりやすい解説

ヤコウチュウ (夜光虫)
Noctiluca scintillans (Macartney)Ehrenberg(=N.miliaris Surirary)

暖海沿岸にもっともふつうに見られるプランクトン。浮遊生活をする直径1~2mmの球形の海産単細胞生物で,波の動きなどの刺激により発光する性質がある。体の中心に原形質が集まっていて,そこから網目状に原形質糸が周囲に向かってのびている。体には深くくぼんだ溝状の部分があり,その後端から1本の触手が,そして前端近くから1本の鞭毛がそれぞれのび,また中央付近に口部がある。触手は細胞外壁が変形したもので,これを反復運動させて浮遊性の微細な動物や植物をとらえて口部に運ぶ。生体は淡い桃色を呈し,春~初夏に大繁殖して赤潮を起こし,養殖中の魚貝類を大量に殺すことがある。体が縦に二分裂する無性生殖と,体内で核分裂が連続して起こり,256個の雌雄の配偶子ができ,これらが接合する有性生殖が知られる。ヤコウチュウに色素体がなく動物的生活をするので,動物学では原生動物に分類するが,核の構造や配偶子など遊走細胞の形態の類似から植物学では渦鞭毛藻類に分類する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤコウチュウ」の意味・わかりやすい解説

ヤコウチュウ
やこうちゅう / 夜光虫
[学] Noctiluca miliaris

原生動物の鞭毛虫(べんもうちゅう)亜門渦(うず)鞭毛虫目ヤコウチュウ科に属する海産プランクトン。世界の海域で普通にみられる。外形は球状で軟らかく、大形のものでは2ミリメートルに達する。後部に1本の触手を有し、その基部には大きな深い溝がある。溝の中に1本の縦鞭毛と、歯状に変形した横鞭毛がある。粘着性の触手を往復運動させて単細胞の緑藻、原生動物、小形甲殻類などをとらえ、溝の最深部にある細胞口に送り込む。体内は多数の液胞に富み、細胞質は体の中心部より放射状に分布する。摂食に際して細胞口部域への激しい細胞質の集合がおき、食胞を形成して餌(えさ)を取り込む。葉緑体はないが、共生藻Zooxanthellaをもつものもある。普通、二分裂で増えるが、ときに多分裂もする。細胞質中に発光顆粒(かりゅう)があり、波などの機械的刺激で青緑色に発光するので有名。春から夏に大繁殖し、赤潮(あかしお)となって養殖の魚貝類に被害を与えることがある。

[堀上英紀]

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世界大百科事典(旧版)内のヤコウチュウの言及

【渦鞭毛藻類】より

…マミズツノオビムシCeratium hirundinellaは淡水に大発生して水に臭気や味を生じさせる。海ではヤコウチュウNoctiluca ecintillans,ナガツノオビムシCeratium furca,ユミツノオビムシCeratium fusus,ゴカクウズオビムシPeridinium pentagonium,ススフタヒゲムシExuviaella marinaなどが普通にみられる。ギムノジニウム属GymnodiniumゴニオラクスGonyaulaxなどの種類が赤潮になったときは大きな被害がでる。…

※「ヤコウチュウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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