日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムツ」の意味・わかりやすい解説
ムツ
むつ / 鯥
gnomefish
[学] Scombrops boops
硬骨魚綱スズキ目ムツ科に属する海水魚。北海道から九州南岸までの太平洋と日本海沿岸、東シナ海、九州・パラオ海嶺(かいれい)、台湾、朝鮮半島南岸、済州島(さいしゅうとう)(韓国)などの西太平洋、モザンビーク、南アフリカなどのインド洋に分布する。体は長楕円(ちょうだえん)形でやや側扁(そくへん)する。頭は大きく、頭長は体長のおよそ3分の1。吻端(ふんたん)はとがる。目は大きく、眼径は吻長に等しいか、わずかに長い。両眼間隔域は平坦(へいたん)。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の中央部よりも後方に達する。上下両顎歯は犬歯状で、1列にまばらに並ぶ。上顎の前端の内側に2~3本のやや大きな犬歯がある。舌上にも歯がある。鋤骨歯(じょこつし)(頭蓋(とうがい)床の最前端の骨にある歯)は半月形をした絨毛(じゅうもう)状歯帯で、口蓋骨歯は1~2列に並ぶ。鰓耙(さいは)は上枝に2~5本、下枝に12~17本。側線有孔鱗(ゆうこうりん)数は50~57枚。背びれは2基に分かれ、第1背びれは胸びれの基底よりもかなり後ろの上方から、第2背びれは臀(しり)びれよりも前方から始まる。第1背びれは8~9棘(きょく)、第2背びれは1棘12~14軟条、臀びれは3棘11~13軟条。尾びれは深く二叉(にさ)する。体色は黒みがかった赤褐色で、腹部は銀白色であるが、幼魚期に鱗(うろこ)がはがれやすく、鱗がはがれた個体ではいくぶん紫色になっている。尾びれは黄褐色で縁辺は淡黒色。成魚では口の中は黒い。産卵期は12月~翌年3月で、卵は浮性卵である。孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)は5月ころには4センチメートルくらいに成長し、沿岸の岩礁地帯や藻場(もば)に群れをなしてすむ。小魚やエビ・カニ類などを貪食(どんしょく)して成長を続け、成魚になると沖に出て水深200~700メートルの深海の岩礁域に群れですむ。肉食性で魚類、甲殻類、頭足類などを食べる。満3歳で体長約30センチメートルになり成熟する。最大全長は80センチメートル。若魚は釣りや定置網で、成魚はおもに底魚立縄(たてなわ)釣りによって漁獲される。旬(しゅん)は冬で、煮つけ、鍋物(なべもの)、焼き魚、刺身などにする。また卵巣も賞味する。近縁種のクロムツS. gilbertiとは、ムツのほうが側線有孔鱗数が少なく、鰓耙が多いことと、クロムツのほうが体色が黒紫褐色であることなどで区別できる。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]
調理
白身魚だが脂質が多く、身は柔らかい。とくに冬の子持ちのムツは味がよい。卵巣はムツ子と称し、マダラの卵巣に似ていて賞味される。身は煮つけ、照焼き、みそ漬け、鍋物などにする。卵巣は煮つけに、白子も煮つけや鍋物によい。
[河野友美・大滝 緑]
釣り
船釣りになる。浅い所で水深100メートル前後、深い所では200~300メートルをねらう。胴づき専用竿(ざお)、胴づきリールか、深場では電動リールも使う。道糸は伸びのない糸8~12号。先糸に透明ナイロン糸8~10号5~10メートル。ムツ鉤(ばり)を結んだ枝鉤3~5本、オモリ120~250号。
餌(えさ)はヒシコイワシ、サバの身、イワシの身などを使う。仕掛けを一気に海底まで沈め、オモリがついたら1メートルほどリールで巻き揚げて魚信を待つ。竿先にククッと明確な反応が出る。慌てず、ゆっくり、ひと呼吸置いてリールを巻くと、1尾、2尾と追い食いすることが多い。釣り場によってはシロムツ、アカムツなども混じるので、冬に楽しめる釣りである。
[松田年雄]