マレー語(読み)マレーご(英語表記)Malay

翻訳|Malay

精選版 日本国語大辞典 「マレー語」の意味・読み・例文・類語

マレー‐ご【マレー語】

〘名〙 オーストロネシア語族西オーストロネシア語派に属する言語。インドネシア共和国国語インドネシア語マレーシアの国語マレーシア語は同じ言語の変種である。マライ語。ムラユ語とも。

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デジタル大辞泉 「マレー語」の意味・読み・例文・類語

マレー‐ご【マレー語】

マレー‐ポリネシア語族インドネシア語派に属する言語。マレーシアインドネシアを中心に話されている。

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改訂新版 世界大百科事典 「マレー語」の意味・わかりやすい解説

マレー語 (マレーご)
Malay

アウストロネシア語族インドネシア語派に属する一言語で,マレー民族の固有語。マライ語ともいう。現在,公用語として用いられるマレーシア連邦ではマレーシア語,インドネシア共和国ではインドネシア語Bahasa Indonesiaと呼ばれる。ただし広義では,インドネシア語派の諸言語を総称してマレー語と呼ぶこともある。マレー民族はタイ南部パタニ地方,シンガポールにも多数居住し,またマレー語の話し手はフィリピン南部の島嶼部にも及んで,その使用人口はおよそ1億3000万に達する。最古の記録は7世紀末にさかのぼる。マレー民族以外の固有の言語をもつ民族により,島々の間で交易語としてマレー語が用いられた歴史は古いが,マレー語のそのような役割は今日も変わっていない。1596年《東方案内記》を著したオランダJ.H.vanリンスホーテンは,〈マラヨMalayo語は全東方の言語のうちで最も洗練されていて,ヨーロッパのフランス語のような〉共通語として機能していることを指摘している。

 文字は7世紀の碑文では南インド系のパッラバ文字,13世紀からはアラビア文字文献で用いられ,マレーシアでは近年までアラビア文字で書かれることが多かった。インドネシアでは16世紀初めオランダによる支配が始まって以降,ローマ字化がむしろ積極的に進められ,20世紀初めからはローマ字表記が一般的となった。書記言語としての本格的な記録は17世紀初めの《スジャラ・ムラユ(ムラユ史)》があり,それ以後,マレー文学史が始まる。マレーシアでは伝統的なマレー語文学が重視されてきた一方で,インドネシアでは,1917年オランダ政府によって設けられた〈バライ・プスタカ(文書館)〉がマレー語をはじめとする地方語の活字化に尽力し,これはマレー語からインドネシア語への精神的・言語的改革を助長するのに効があった(インドネシア語の成立に関しては,詳しくはその項目を参照)。マレー語はそれぞれの国で違った道を歩み始めたことになるが,77年以降,それまで行われていたマレーシアの英語式ローマ字表記法とインドネシアのオランダ語式ローマ字表記法とが統一された正書法に改められ,言語的離反にも歯止めがかかることになった。

 マレー語は経由した歴史的・文化的背景に呼応して,サンスクリット,アラビア語から,また近年は,マレーシア語では英語,インドネシア語ではオランダ語からの多くの借用語を含む。古くから交易語として活用された理由の一つには,単語を並べるだけで簡単な用はたせるという文法構造上の単純さもあったが,実際には,文法の核心となるのは接頭辞接尾辞に基づく接辞法で,それを完全に使いこなすには相当の学習を必要とする。語順は原則的に主語-述語-目的語の順であり,また修飾語被修飾語の後に置かれる。動詞は語形変化せず,したがって時制を明確に区別しない。jalan〈道〉がjalanjalan〈散歩〉となるような重複法が多いのも特色である。重複は複数や多類を表すとは限らず,本来は同じ類のもの(たとえば,anak〈子〉に対しanakanak〈児童〉,anak-anak-an〈人形〉)を表すのがその機能であった。マレー語は広い地域にまたがり,多くの民族によって使用される言語であるため,各地方語から被る影響が発音や語彙(ごい)に現れる。その典型的なものに,主として華僑(かきよう)によって使用されるババ(荅荅)・マレー語があり,またインドネシアのイリアン・ジャヤ州にはパプア系諸言語(パプア諸語)の影響に基づくパサル・マレー語がみられる。標準的マレーシア語としてジョホール州の,また標準的インドネシア語としては多くの文筆家を生み出したスマトラ島出身者のマレー語が基準とされたことがあったが,現在,その差は解消しつつあるとともに実際の言語使用では地域性が現れるという,二律背反性を抱えている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マレー語」の意味・わかりやすい解説

マレー語
まれーご

マレー半島およびインドネシア地域で話されるオーストロネシア系言語。マレーシア(1500万人)、シンガポール(300万人)、ブルネイ(25万人)のものを「マレーシア語」、インドネシアの国語を「インドネシア語」(Bahasa Indonesia、1億6000万人)とよぶ。人口に対する、マレーシア語を母語とする者の割合は、ブルネイ80%、マレーシア45%、シンガポール15%、インドネシア7%であるが、ジャワ語(6000万人)、スンダ語(2000万人)など、大小300ほどもあるといわれるこの地域の諸言語の話者の間で数世紀にわたって共通語となってきたのがマレー語である。南インド系の文字による最古の碑文(683)がスマトラ島で発見されている。16世紀以来の「古典マレー語」の諸文献はアラビア文字で書かれ、20世紀なかばまでの書きことばの標準となった。オランダ、イギリスによる支配地域が19世紀に確定し、地域によってオランダ式、イギリス式のローマ字化が行われてきたが、1972年から、共通のつづりが用いられることとなった。次に文字で音素を示す。子音はp,b,t,d,c[tf],j[dʒ],k[k,ʔ],g,s,h,l,r,m,n,ny[ɲ],ng[ŋ]、ほかに外来音としてf,v,z,sy[ʃ],kh[x]、半母音はy,w、母音はi,e[e,ə],a,o,uである。語にはmata「目」のような開音節語、rumput「草」のような閉音節語がある。接頭辞、接尾辞による語の派生が盛んに行われる。(例:kejar「追いかける」→berkejar(-kejar)an「追いかけ合う」)。接中辞は化石化したものが残るにすぎない。名詞、動詞は、性、数、人称、時制などを形で示さない。語の配列は主語+動詞+目的語である(例:Harimau makan babi.「虎(とら)―食べる―豚」すなわち「虎が豚を食べた」あるいは「虎は豚を食べる」)。助数詞は古典マレー語には多かったが現在は三つである。

[杉田 洋]

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世界の主要言語がわかる事典 「マレー語」の解説

マレーご【マレー語】

アウストロネシア語族のインドネシア語派に属する言語。マレーシアとインドネシアの公用語(国語としてはそれぞれマレーシア語、インドネシア語と呼ばれる)、シンガポールとブルネイでは公用語の一つ。古くからマレー人の言語にとどまらず、この地域一帯の共通語として使われてきた歴史をもつ。インドネシアでは人々の母語はジャワ語その他の地方語だが、20世紀にマレー語をインドネシア語と呼んで民族独立の表現手段とし、1945年の独立後に公用語とした。最古の碑文(ひぶん)(7世紀)は南インド系の文字、13世紀以降の文献はアラビア文字で書かれ、16~20世紀にラテン文字の表記に移行した。言語的な特徴としては、語の派生に接辞を多用する、「主語-動詞-目的語」の語順をとる、動詞は語形変化をしない、修飾語は被修飾語の後に置く、などがある。サンスクリットアラビア語に由来する語彙(ごい)に加えて、マレーシア語では英語、インドネシア語ではオランダ語からの借用語が多い。◇英語でMalay。マライ語ともいう。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マレー語」の意味・わかりやすい解説

マレー語
マレーご
Malay language

マレーシア,シンガポール,インドネシアで使われる言語。マライ語ともいう。母語とするのは,マレー半島,リアウ諸島など付近の島々,スマトラ東部,ボルネオ沿岸部などに住む約 1100万人の人々であるが,上記の3国の公用語として,より広く流通している。オーストロネシア語族の一つ,インドネシア語派に属し,接辞による語形成の組織が発達している。多くの方言に分かれるが,マレー半島南部の方言が標準語の基礎になっている。最古の文献は7世紀のスマトラの碑文で,南インド系の文字で書かれているが,14世紀以後アラビア文字が使用され,現在はローマ字が用いられる。マレー語のローマ字による正字法は,イギリスの学者たちによって案出され,出版にも用いられた。標準インドネシア語の正字法もローマ字を用いるが,その基礎がオランダ人によってつくられたため,マレー語の正字法とは異なっていた。しかし,1972年マレー語とインドネシア語の正字法が統一され,現在の出版物は新しい正字法によっている。

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百科事典マイペディア 「マレー語」の意味・わかりやすい解説

マレー語【マレーご】

アウストロネシア語族のインドネシア語派の主要言語。スマトラ島東部からマレー半島に広まり,15世紀ころからインドネシア各地,インドシナ半島海岸地方の共通語に発達した。現在,母語とするものは,マレー半島とその付近の小島,スマトラ島東部等にとどまるが,マレーシア,シンガポールの公用語として,インドネシアの国語インドネシア語(バハサ・インドネシア)として広範囲に使用される。はじめインド系文字,次いでアラビア文字,現在は主としてローマ字で書写される。マレーシア内の話し手の数は約8600万人。
→関連項目マレー[人]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「マレー語」の解説

マレー語(マレーご)
Malay

「マレーシア語」とも「インドネシア語」とも呼ばれる。マレー半島,リンガ・リアウ諸島,スマトラ島,ボルネオ島沿岸部に土着的に分布する。古くから,東南アジア島嶼部で交易用語として利用され,多くのピジン言語やクレオル言語の母胎となった。最古の文字記録として,インド系の音節文字によって記された,7世紀末のシュリーヴィジャヤ碑文群がある。

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世界大百科事典(旧版)内のマレー語の言及

【マレー人】より

…東南アジアのマレー半島,東マレーシア,スマトラ東岸やその周辺に散在する小島群におもに居住する民族。マライ人とも呼ばれる。アウストロネシア(マレー・ポリネシア)語族に属するマレー語を話す。その先祖はプロト・マレー人と同系統であり,紀元前2500‐前1500年ごろ南中国の雲南あたりから南下してきたものといわれている。一般に,航海術に秀でて,フィリピン群島やインドネシア諸島,アフリカ東岸近くのマダガスカル島にまで渡ったという。…

【インドネシア語】より

…インドネシア共和国の〈国語〉としてのマレー語に与えられた呼称。したがって,言語学的にはマレー語の一方言である。…

※「マレー語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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