ボーアの原子理論(読み)ボーアノゲンシリロン

化学辞典 第2版 「ボーアの原子理論」の解説

ボーアの原子理論
ボーアノゲンシリロン
Bohr's theory of atomic structure

N. Bohr(ボーア)が,1913年に提唱した原子の構造と原子スペクトルに関する理論.1911年,E. Rutherford(ラザフォード)は,電荷Zeをもつ原子核のまわりをZ個の電子(電荷,-e)がまわっているという原子模型を提出したが,古典電磁気学によると,この模型では電子は連続的な波長の光を放出することにより,しだいにエネルギーを失って,ついには核と合体することになる.したがって,原子の安定性も,その与える線スペクトルも説明できない.BohrはM. Planck(プランク)の量子仮説にもとづいて,水素原子内の電子について,その軌道運動古典力学に従うが,そのうちで全エネルギーがhν(hプランク定数,νは電子の回転周波数)の整数倍に等しい,いわゆる量子条件を満足するものだけが定常的な運動状態として許されると仮定した.さらに,電子がある定常状態から別の定常状態に遷移するとき,両状態のエネルギーを WnWm とすると,

と表される振動数の光が放出ないし吸収されると仮定した.これらの仮定にもとづき,かつ水素原子の電子運動を円軌道とみなして,その線スペクトル系列を原子構造の立場から説明することにはじめて成功した.この考え方はさらにA. Sommerfeldらによって,だ円軌道を含む,より一般的な形に拡張され,前期量子論基礎が築かれたのである.しかし,この理論は電子運動を古典力学で取り扱う点に根本的な無理を含んでおり,その内容量子力学により書き換えられた.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボーアの原子理論」の意味・わかりやすい解説

ボーアの原子理論
ボーアのげんしりろん
Bohr's theory of atom

1913年に原子構造と原子スペクトルについて N.ボーアが提唱した理論。 11年 E.ラザフォードは,原子が原子核と電子から構成され,正電荷をもつ1つの原子核が中心にあり,負電荷をもついくつかの電子がそのまわりを回っていることを確認した。しかし1つの主要な問題があった。古典電磁気学によれば,このような電子は光を放出して,次第にエネルギーを失い,ついには原子核に捕えられることになるため,原子の安定性も原子の出すスペクトルも説明できなかった。これらを説明するため,ボーアは A.アインシュタイン光量子の考えを古典力学と結びつけた。電子の軌道は古典力学に従うが,そのうち量子条件に従うものだけが不連続的に安定な定常状態として実現され,電子が1つの定常状態から別の定常状態に移るときは,振動数条件を満たす光が放出・吸収されると仮定すると,原子の安定性だけでなく,水素原子の線スペクトルをみごとに説明することができた。この功績により,22年ボーアにノーベル物理学賞が授与された。しかし,ボーアの考えは,古典力学と光量子という異質なものを結びつけただけであり,統一的な体系とはいえないし,過渡的なものと考えざるをえず,量子力学に取って代られることになった。

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法則の辞典 「ボーアの原子理論」の解説

ボーアの原子理論【Bohr's theory of atomic structure】

ラザフォードの原子模型では中心にプラスの電荷をもつ原子核があり,負電荷をもつ電子がその周囲を周回しているというモデルであったが,古典電磁気学ではこの模型は不安定で,連続的な光を放出し,最終的には核と電子が合体することになってしまう.ボーアはこの難点を回避するため,軌道運動は古典力学に従うが,角運動量が量子化されて hν の整数倍となった軌道のみが安定に存在するというモデルを提出した.これによって線スペクトルの系列は説明可能となったが,電子の運動を古典力学で扱うことに無理があり,やがて量子力学により改訂された.

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