ホークス(John Hawkes)(読み)ほーくす(英語表記)John Hawkes

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ホークス(John Hawkes)
ほーくす
John Hawkes
(1925―1998)

コネティカット州出身のアメリカの小説家。少年時代から喘息(ぜんそく)の持病があり、第二次世界大戦に参戦できなかったが、ハーバード大学を中退してドイツでアメリカ軍の傷病兵運搬車の運転手を勤めた。戦後に復学して、詩を書いていたが、前衛的な小説家でもあるアルバート・ゲラード教授の創作学コースをとってから、フィクションに転向し、『シャリバリ(結婚狂想曲)』(1949) という幻想的な中編でゲラード教授にたぐいまれな独創性を認められた。やがてホークスは同教授の示唆を受けながら、現在でも彼の最高傑作とみなされる『人食い』(1949)を書き上げた。これは戦後まもないドイツの小都市で、ネオナチ集団が占領米軍を撃退し、支配権を奪回するという物語。その最初から最後まで、ひとりのナチ指導者が仕込み杖(づえ)を振りかざして、罪のないひ弱な少年を街じゅう追いかけ、最後にはキツネに変身した少年を殺して、その肉を同志らとともに食べる。おそらくあらゆる人間の内面深くに潜んでいる加害者性を、悪夢のようなブラック・ユーモアで暴いてみせた文学的な技法は、批評家以上に多くの有能な作家志望者を驚嘆させた。『キャッチ‐22』のジョーゼフ・ヘラーも『人食い』から大きな影響を受けたと認めていた。

 その後、ホークスは『虫の脚』(1951)、『罠 ライム・トゥイッグ』(1961)、『もうひとつの肌』(1964)、『ブラッド・オレンジ』(1971)、『死、眠り、そして旅人』(1974)、『激突』(1976)など、いまや「現代の古典」とみなされている秀作をはじめ、『ビルジニー』(1982)、『スィート・ウィリアムズ』(1993)などの長編を含む多くの作品で、伝統的なプロットに頼らず、読者の想像力を喚起する―つまりは、読者の想像力のなかでのみ完結する―声とイメージの世界を創造した。作家好みの作家といわれ、大衆性には乏しいが、現代文明がもたらす死と破壊と腐敗とに対比させられた(ピューリタン的道徳真っ向から挑戦するかのような)彼のエロティシズムは、現代アメリカ作家のうちでも際だって新鮮であり、アメリカ以上にフランスで高い評価を受けている。なお、『ブラッド・オレンジ』は1997年にフィリップ・ハースが監督して映画化され(題は『インモラル・ビーチ』)、ホークス夫妻もメキシコのロケ現場を訪れた。

[飛田茂雄]

『吉田誠一・関敬子訳『もうひとつの肌』(1983・国書刊行会)』『飛田茂雄訳『人食い』(1997・彩流社)』『飛田茂雄訳『激突』(1997・彩流社)』『田中啓史訳『罠 ライム・トゥイッグ』(1997・彩流社)』『柴田裕之訳『死、眠り、そして旅人』(1998・彩流社)』『迫光訳『ブラッド・オレンジ』(2001・彩流社)』

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