ブドウ(読み)ぶどう(英語表記)grape

翻訳|grape

改訂新版 世界大百科事典 「ブドウ」の意味・わかりやすい解説

ブドウ (葡萄)
grape
grape vine
vine

ブドウ科ブドウ属に属する落葉植物で,果樹としてオレンジ類に次ぐ世界第2位の生産量をあげている。ブドウ属Vitisは暖温帯から温帯にかけて約70種が知られ,その多くのものが果実を食用に利用されている。つる性で巻きひげを他物にまきつけてよじ登る。葉は互生し単葉で,欠刻の有無や程度は多様である。巻きひげは節に葉と対生して生ずるが,各節に連続してつくものと,2節おきに1節つかないものとがある。花は小さくて多数が房になってつき,5~6月に開く。両性花のほか雄花と雌花の区別のあるものや雌雄異株のものもある。花弁は緑色で5個あるが,上部が開かず,開花時には基部が離れて脱落する。両性花は子房上位のめしべと通常5本のおしべをもつ。果実は液果で内部に0~4個の種子を含み,8~10月に熟する。果実は大きさと形,果皮の色が変化に富んでおり,甘みと酸味を有し,食用にされている。

野生種の果実が古くから現在まで広く利用されているが,栽培が行われるようになったのは前3000年ころのことである。最初の栽培種はヨーロッパブドウV.vinifera L.(英名common grape,wine grape,European grape)であり,カフカス地方から地中海東部沿岸地方にわたる地域で,セム族あるいはアーリヤ人によって栽培が始められ,ブドウ酒造りも始められたとされ,アーリヤ人はインド方面に,セム族はエジプト方面にそれを伝えたとされる。その後,前1500年ころにはフェニキア人によってギリシアにも栽培と醸造が伝えられ,ブドウ酒はギリシア神話にも縁の深いものとなった。さらにローマ人はギリシアからその栽培と醸造法を学び,西ヨーロッパへも逐次広めていった。東アジアへの伝播(でんぱ)は,漢の武帝の時代に西域に派遣された張騫(ちようけん)あるいはその関係者によるものとされる。北アメリカには多くの野生種があるが,古くは栽培化されず,17世紀の初めころ白人によってヨーロッパブドウが持ち込まれて栽培が始まり,気象条件の好適なカリフォルニア州で盛んになった。東部諸州では気象条件が適さず,病虫害がひどいので,耐病虫性の強いアメリカブドウV.labrusca L.(英名fox grape)の栽培化が起こり,また品質のよいヨーロッパブドウとアメリカブドウの交雑による改良品種も作られるようになった。またアメリカ合衆国東南部の亜熱帯および熱帯地域では,muscadineとよばれるV.rotundifolia Michx.が栽培され改良も行われるようになった。その後アメリカブドウがヨーロッパへ導入されたが,同時にブドウの大害虫フィロキセラブドウネアブラムシ)が持ち込まれ(1860ころ),その被害によって一時はヨーロッパブドウが全滅の危機に瀕した。フィロキセラはブドウの根と葉に寄生して瘤(こぶ)を作り大害を与える昆虫である。しかし,アメリカ原生種の中にフィロキセラに対して強い抵抗性を示す種があり,これらとの交雑によってフィロキセラ抵抗性台木を育成し,この利用によって難を免れた。

 日本でのブドウ栽培は1186年(文治2)甲斐国(山梨県)の雨宮勘解由(あめみやかげゆ)によって,中国から渡来した種から生じたと推察される甲州ブドウが見いだされ,栽培に移されたのが最初とされている。その後,栽培は遅々として広まらなかったが,17世紀の初め甲斐徳本(かいのとくほん)によって棚作り栽培が指導されてから著しく発展した。明治に入ってからフランスとアメリカから多くの品種が導入された。そのうちヨーロッパブドウは,果皮がうすく裂果しやすいし病気も出やすいため,夏季に多雨の日本の気候に適さず,温室栽培として2~3の品種が残っただけで大栽培には至らなかった。アメリカブドウとその交雑品種は日本でも栽培が可能で,多くの品種が全国で栽培された。また日本国内でも大正末期より品種の改良が行われて多くの優良品種が生み出され,ブドウは日本でも主要な果樹の一つになった。

世界ではヨーロッパブドウ品種が1万以上あるといわれ圧倒的に多く栽培されているが,日本ではアメリカブドウとの雑種が主体でデラウェア,キャンベル・アーリー,巨峰,マスカット・ベーリーAが代表的である。ヨーロッパブドウはその中でも比較的耐雨性の強い東洋系の甲州,ネオ・マスカットが露地で作られ,マスカット・オブ・アレキサンドリアがガラス室内で作られている。醸造用にはカベルネ・ソービニヨン,セミヨン,リースリングなどを筆頭に世界には数千品種あるが,日本では栽培が少ない。またトムソン・シードレスは種なしで干しブドウの原料として有名だが,日本には適さず栽培されていない(表)。

苗木は挿木でもできるが,フィロキセラに根を侵されるので,普通は抵抗性台木を使った接木苗を使う。温帯で生育期に降雨の少ない所がよい果実を産する。土壌はとくに選ばないが,排水と保水が共によい礫(れき)を含んだ重い土壌が好適で,火山灰土はあまり適さない。外国では垣根仕立て,棒仕立てが多いが,日本では多雨多湿に順応して棚仕立てとし木を大きく育てる。枝の混みすぎを防ぐため冬季に剪定(せんてい)を行う。芽の数を6~7芽残す長梢剪定と1~2芽で切る短梢剪定とがあり,長梢ではX字型自然形整枝,短梢では一文字型,H字型整枝などが行われる。夏季には棚面の明るさを保ち,果実の品質を向上させるために芽かき,摘心,誘引,摘房,摘粒,笠かけまたは袋かけなどを行う。デラウェアではジベレリン処理による種なし果実の生産が一般化している。開花2週間前に花穂をジベレリン100ppmの水溶液に浸漬(しんせき)して種なしにし,さらに開花後2週間でもう1度処理して果実の肥大を促進させる。地力維持には有機質の肥料を多く用いる。肥料成分としては窒素,リン酸,カリのほか石灰とマグネシウムが重要である。病気は黒痘病,べと病,晩腐病,うどんこ病などがあり,防除には休眠期にPCP加用石灰硫黄合剤,生育期に有機硫黄剤,ボルドー液などを用いる。害虫にブドウトラカミキリスリップスフタテンヒメヨコバイなどがあり,低毒性有機リン剤などで防除する。露地栽培とガラス室栽培のほか,近年ビニルハウスによる促成栽培が盛んになり,4月から生果の出荷が始まる。

 世界での生産は年間約5600万t(1994)で,果実中第2位である。主要生産国はイタリア,フランス,スペインの南ヨーロッパ3国で世界の約35%を占め,そのほかアメリカ,トルコ,アルゼンチンが多い。日本ではミカン,リンゴ,ナシ,カキに次いで第5位を占め,山梨,長野,山形,岡山,福岡で多く生産している。

世界では全体の約12%(1980)が生食用,約80%が醸造用,残りが干しブドウ,ジュース,ジャム,ゼリーなどの加工に用いられる。日本では約85%が生食用,約8%が醸造用,残りがジュース,瓶・缶詰,ジャムなどの加工用である。ギリシアやインドではブドウの若芽を野菜として利用することがある。
ブドウ酒
執筆者:

ブドウは最も古い栽培植物の一つで,《創世記》9章20節にも,ノアが箱舟を出てブドウ畑を作り始めたとある。それは一般に生命と豊饒(ほうじよう),歓楽と祝祭を象徴する。また聖書では,ブドウは神の慈悲の象徴と考えられ,モーセはイスラエル人に対して,摘み残したり地上に落としたブドウの実は放置して貧者に与えよ,と命じている(《レビ記》19:10)。古代エジプトではオシリス,ギリシアではディオニュソスバッコスにささげられた植物で,これらの豊饒神がオリエント,エジプト,さらにヨーロッパへブドウの栽培を広めてまわったとする伝説も多い。彼らを祭る神殿はブドウづるで飾られ,聖所に不可欠な装飾となった。また,ブドウ酒の酔いが人々に苦痛を忘れさせたため,ブドウづるの茂る場所が〈逃避の場〉を意味するようになり,古代ローマではイチジクとともに〈家庭の慰安〉を表現する植物となった。

 一方,キリスト教にあっては,聖餐(せいさん)に用いられるブドウ酒がキリストの血を象徴する。また《ヨハネの黙示録》16章19節ほかにある語句〈怒りのブドウ〉は神の怒りと復讐(ふくしゆう)を表し,大地主の搾取に移住労働者の怒りが高まっていく過程を描いたスタインベックの小説のタイトルにもなった。またアウグスティヌスはブドウ搾り機wine-press(神の怒りや殺戮(さつりく)の象徴)にかけられたブドウの房をイエス・キリストの受難の姿とみなし,これを象徴的図像表現に定着させた。なお,《民数記》13章23節には,モーセが男たちに命じてカナンの地を見にいかせた際,二人がザクロ,イチジクとともにブドウを一房棒にかけて持ち帰った話があり,転じて〈約束の土地〉の象徴ともなった。このためフランスの教会堂のステンド・グラスには,ブドウを運ぶ二人の男の図柄が盛んに用いられ,やがて棒にかけられたブドウの図は,キリスト磔刑(たつけい)の寓意にもされた。そのほか,小羊とブドウの房を組み合わせた図柄は〈犠牲〉,ブドウの房から麦の穂が突きだした図柄は〈聖体拝受〉を表す。聖書に題材を取る宗教美術においては,イブの陰部をおおうのにこの葉を描くのがふつうで,アダムのイチジクの葉と対をなす。また17世紀のオランダの静物画では,ブドウを秋の寓意とした。花言葉は〈慈悲〉と〈歓楽〉。
執筆者:

ブドウはザクロと並んで豊穣のシンボルとされ,ギリシアのディオニュソス信仰とも関連して,古くから聖なる果実として尊ばれた。そのことから葡萄文は瑞果(ずいか)文として使われている例が多い。イラン系の美術でブドウが動物や女神とともに描かれているときは,単なる装飾文様ではなく,聖なる意味をもつと考えてよい。またローマ時代の廟堂(びようどう)のモザイクに葡萄樹がしばしば描かれるが,このような葡萄樹は宗教的な色彩をもち〈楽園〉を表しているとされる。またブドウは唐草文様のモティーフに好んで使われている。つるが唐草の主軸となり,左右に房と葉とを配した形が葡萄唐草の基本で,地域や時代によってさまざまな変化をみせる。西アジアでは,パルミュラのベール神殿浮彫のように完熟した房が描かれているものや,ササン朝の銀壺にみられるように茎のカーブの大きさに比べて茎や房が小さいものなどがある。またベグラーム出土の象牙浮彫ではブドウの房を縦横の線だけで表現している。シルクロードの遺跡から発見された染織品には葡萄唐草による円を織りなしたものも多い。中国では鏡の背面装飾に用いられる葡萄唐草が注目される。海獣葡萄鏡がその中心で,隋・唐代のこの鏡のデザインは,正倉院にも伝わっている。仏教美術でも葡萄唐草は盛んに使われるが,日本のものでは薬師寺薬師如来像(白鳳時代)台座にあるものが美しい。ブドウはまた桃山から江戸時代初期の工芸ではリスと組み合わされて,しばしば描かれた。古伊万里の染付大皿や漆芸品にもおもしろく仕立てられている。
執筆者:

ブドウは現存する中国最古の本草書《神農本草》の365種類の薬剤の中に挙げられ,659年に著された《図経》には漢の武帝の命令で西域に派遣された張騫(ちようけん)がもたらしたと記されている。また5~6世紀の陶弘景は,魏国の使者が多くもたらしたこと,甘美で酒につくるとことに美味であり,北国の人がよく肥え健康で耐寒力があるのは,ブドウのせいであろうといっている。当時は隴西(ろうせい),五原,敦煌(とんこう)の山谷で採れたという。薬効は筋骨をじょうぶにし気を益し,力を倍増し志を強め,湿痺を除き,肥(ふと)らせ,健やかになり,飢えや風寒に耐え,長く続けて摂取すると身を軽くし,歳をとらず,長生きするとされる。酒に造ると小便を利するとされていた。ただし孟詵は多食をいましめている。現代中国では新疆などに産し,気血の虚弱や肺が弱くて咳が出るもの,寝汗や浮腫,リウマチ,淋病などの薬とされ,根や茎や葉もまた煎じて薬用にあてている。日本でも《和名類聚抄》や《伊呂波字類抄》《医心方》などに紫葛,蒲萄,和名エヒカツラ,エヒカツラノミとして記載されている。
執筆者:

双子葉植物で,約12属700種があり,ヤブカラシノブドウなどを含む。多くはつる性の木本で,まれに草本性のつる草や直立する種もある。熱帯から亜熱帯に常緑性の種が多く,温帯には落葉性の種が分布する。葉は互生し,単葉でいろいろな程度に分裂するものから,掌状または大きい羽状複葉になるものまである。つる性のものには巻きひげがあるが,この巻きひげは主軸の先端が変わったもので,その腋(えき)から伸びる枝が次の主軸になって伸びる(仮軸分枝)特性がある。ツタのように,巻きひげの先に吸盤をもつものもある。花は5数性で小さく,両性花と雄花とがある。花冠は5弁あって,先が互いにくっつき,開花のとき,基部で離れて帽子をぬぐように脱落する特性がある。おしべは5本あって,花弁と対生する位置につく,雌花ではおしべは退化している。花序は円錐花序または集散花序を作るが,この花序は枝の先端にできるため,巻きひげと同じように葉と対生する位置についている。果実は液果で,ブドウのように食用および酒を造るのに用いられるものがある。また観葉植物として栽培されるものもある。クロウメモドキ科と類縁があり,クロウメモドキ目にまとめられている。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブドウ」の意味・わかりやすい解説

ブドウ
ぶどう / 葡萄
grape
[学] Vitis

ブドウ科(APG分類:ブドウ科)に属する落葉性つる植物。巻きひげがあり、種によって連続または断続的に葉と対生する。雌雄異株または両性株で、5~6月に房状の花をつける。花弁は5枚ほどで緑色、上部が融合しキャップ状となり、開花が始まると、帽子が脱げるように脱落する。雌株は、子房上位の雌しべと、機能がない花粉をもつ5本ほどの雄しべからなり、雌しべと雄しべの間には花盤(かばん)がある。雄株は、機能がある花粉をもった雄しべをつけるが、雌しべを欠く。両性株は、雌しべ、雄しべともに機能がある。果実は液果で8~10月に熟す。果皮は濃紫黒、紅赤、黄緑色など変異に富む。果形も球、楕円(だえん)、紡錘形などがあり、大小の差が大きい。

[飯塚宗夫]

系統と品種

ブドウ属には主要な種60余がある。主分布は中央アジア、東アジア、北アメリカで、日本にも野生種がある。栽培種ではヨーロッパ系とアメリカ系が重要となる。一般に栽培種は雌雄両性で、染色体数は体細胞で38からなり、各系統間では相互に交雑可能で、子孫を残す雑種ができる。

(1)ヨーロッパ系 ヨーロッパブドウVitis vinifera L.は中央アジア起源で、野生種は今日でもアフガニスタン北部から黒海、カスピ海の南部まで分布する。紀元前5000~前4000年にこの地方で栽培化されたブドウが東西に伝わり、伝播(でんぱ)の過程で南ヨーロッパ系、中央アジア系、東アジア系などの栽培型に分化し、今日までに総計1万余品種ができた。ヨーロッパ系は、基本的には多雨多湿を嫌うが、東アジア系は多年にわたる研究で日本の屋外圃場(ほじょう)でも栽培可能となった。南ヨーロッパ系、中央アジア系は果皮が薄く果肉と離れにくいので、欧米では皮のまま食べる。炭疽病、べと病、うどんこ病、晩腐(おそぐされ)病などに弱く、雨による裂果も多いので生育期には雨を避けるのがよい。日本ではガラス室栽培が主体で、9月ごろに成熟して黄緑色となるマスカット・オブ・アレキサンドリアがもっとも多く、わずかにグロー・コールマンその他が栽培されている。種なし品種で名高いトムソン・シードレス(別名スルタナ)は、カリフォルニアが最大の産地である。日本での露地栽培は裂果が多く、栽培は不適である。東アジア系の品種では、露地栽培ができ、10月中旬に熟す暗紅色果の多収性品種である甲州(こうしゅう)がもっとも名高い。このほか、果房の長い甲州三尺、黄緑色に熟し、やや大粒のマスカット香をもつネオマスカットなどがある。

(2)アメリカ系 メキシコを除く北アメリカには主要な28種が原生し、食用、台木として貢献した。アメリカブドウ(ラブルスカ)V. labrusca L.は食用品種育成の基本種で、アメリカ系の中心的な種である。アメリカ系、あるいはこれとヨーロッパ系との雑種は、比較的雨や寒さにも強く、日本でも多く栽培されている。なかでもデラウェアは、ジベレリン処理の種なしブドウとして広く普及した。このほか、アメリカ南部を原生地とするマスカディンブドウmuscadine grapeがアメリカ南部の暖地でわずかに栽培される。この仲間には3種がありMuscadinia属として扱う場合もある。いずれも染色体数は2n=2x=40である。なかでもロートンディフォリアV. rotundifolia Michx.がよく知られ、生育が旺盛(おうせい)で、1樹で150平方メートルとなる。果皮は紫黒、ルビー様赤、黄色などがあり、厚皮で、孤臭(こしゅう)というブドウ臭さが強い。

(3)日本の野生種 北海道東部に分布するチョウセンヤマブドウ(マンシュウヤマブドウ)V. amurensis Rupr.、北海道西部から本州、四国の山野に分布するヤマブドウV. coignetiae Pulliat、ほぼ全国の山野にみられるエビヅルV. ficifolia Bunge(V. tsunbergii Sieb. et Zucc.)、サンカクヅル(別名ギョウジャノミズ)V. flexuosa Thunb.、本州中部地方以西から四国、九州の暖地でみられるアマヅルV. saccharifera Makinoなどがある。いずれも種内変異は大きく、種間雑種もみられる。これらの野生種のもつ耐寒・耐病性などが育種上注目されている。とくにチョウセンヤマブドウは北海道北東部でワインに利用されるほか、中国東北地方での利用も多く、注目されている。

(4)倍数性 野生種は二倍性で、栽培種も二倍性品種が多い。二倍性品種群に比べ、大粒果をつける四倍性品種群(2n=4x=76)もある。よく知られる巨峰(きょほう)はその代表的品種で、つぼみや花が脱落する花ぶるいが多いという欠点をもつが、紫黒色に熟し、大粒で種子も少なく、甘味に富む。ピオーネも四倍性品種で、果皮は濃紫黒色、巨峰より大粒で、品質もよい。

(5)種なしブドウ 開花2週間前のつぼみのついた房を、成長調節物質の一種であるジベレリンの100ppm水溶液に浸漬(しんせき)処理すると、種なし性が促進される。それから開花後約10日に、前回同様の処理を行うと、各果粒が肥大成長する。処理液には湿潤浸透性剤(エアロールOPの100ppmなど)を加えるとよい。処理された種なしブドウは熟期が早まり、糖度も増して商品性が高まる。キャンベル・アーリーは紫黒色の中粒の果粒をつけ、8月中旬から下旬に熟す。マスカット・ベリーAは、ベイリーとマスカット・ハンブルクの雑種から選抜された紫黒色果粒の中生(なかて)種である。栽培は容易で、生食、醸造兼用種である。種なし品種にはほかにヒムロッドなどがあるが、品質は悪い。

[飯塚宗夫]

起源と伝播

ヨーロッパ系は、ヨーロッパブドウの原産地である近東や中央アジアで、新石器時代に野生種の利用から始まった。前2000~前1500年ごろにメソポタミア地方で栄えたセム人や、中央アジアのアーリア人によって栽培が進み、ワインの醸造も始められた。アラビア半島北部からエジプトには前3000年、ギリシアには前1000年、インドには前620年ごろに伝わった。中国へは、一説に、漢の武帝のころ、西域(せいいき)に派遣された張騫(ちょうけん)あるいはその関係者が持ち帰ったといわれている。このような伝播と栽培利用の進歩につれ、諸系統が分化した。北アメリカへは主として16世紀に伝わり、17世紀に栽培が盛んになって、在来のアメリカブドウとの雑種も多くつくられた。今日ではヨーロッパ系の品種がカリフォルニアで大産地を形成している。

 またアメリカ系ブドウは新大陸「発見」後に他地域に伝わった。ヨーロッパへは、根や葉に虫こぶをつくり大害をもたらす害虫フィロキセラとともに導入され、在来のヨーロッパ系ブドウにも大害を及ぼした。のちにフィロキセラ抵抗性台木が育成され、これに接木(つぎき)した苗を用いることによって、問題は解決された。

 日本へのヨーロッパ系ブドウの伝来は中国を経て行われた。1186年(文治2)甲斐国(かいのくに)勝沼(かつぬま)地方(山梨県甲州市)の雨宮勘解由(あめのみやかげゆ)によってその系統である甲州ブドウがみいだされ、それは鎌倉初期から栽培されたという。ブドウの呼び名には古くはオオエビカツラ(『本草和名(ほんぞうわみょう)』)、エビカツラ(『和名抄(わみょうしょう)』)などがあったが、栽培ブドウとの関係は明らかではない。元和(げんな)年間(1615~1624)の初めに棚造り栽培法が案出され、以降、今日の伝統的な栽培法となっている。

 明治になって多数のヨーロッパ系ブドウが導入されたが、多雨の日本の気候に適さず、温室栽培される程度であった。今日のブドウ栽培の主流となったのはアメリカ系ブドウで、明治初期に導入されて以降、多数の改良品種がつくられている。

[飯塚宗夫]

栽培

繁殖は自根の挿木苗も可能であるが、フィロキセラの汚染地では抵抗性台木を用いた接木がよい。気温は冬で零下20℃以上、雨量は生育期間中に1100ミリメートル以下、排水のよい土壌なら日本全土で栽培できる。欧米では垣根や棒仕立てが多いが、日本では棚仕立てが普通である。剪定(せんてい)、整枝(せいし)を行い、樹姿を整えながら結果調整をする。品種や個体によって程度は異なるが、冬季に6~7芽を残して枝を切る長梢(ちょうしょう)剪定と、2~3芽を残す短梢剪定を組み合わせて行い、生育期には芽かき、つぼみ切り、摘心、誘引などを行う。開花期には花房数を調節し、大きな果房の品種では花穂を切り詰め、果粒の密な品種では果粒や小花房を間引きし、必要があれば袋かけや笠(かさ)かけを行って品質の向上を図る。施肥は主として冬期に行い、窒素、リン酸、カリ、石灰、マグネシウムなどを施す。有機質肥料の効果は高い。病気には黒痘(こくとう)病、晩腐(おそぐされ)病、うどんこ病、べと病、灰色かび病、さび病などがあり、害虫にはダニ類、スリップス、ブドウスカシバ、コガネムシ類、ブドウトラカミキリ、ヤガ類などがある。防除は冬期に展着剤加用の石灰硫黄(いおう)合剤の20倍液と「クロン」500倍液を、開花前に「サリチオン乳剤」1000倍液、「ビスダイセン」1000倍液を、落花10日後から10日おきに4―2式あるいは4―4式のボルドー液を数回散布する。害虫類には低毒性の有機リン剤1500倍液を散布し、ブドウトラカミキリの防除には「トラサイドA乳剤」を11月ごろ散布する。

 2016年(平成28)の日本の栽培面積は1万7000ヘクタール、収穫量は17万9200トンで、果樹中栽培面積では5位を占める。山梨、長野、山形、岡山、福岡の各県や北海道で多く栽培される。世界の生産高は、7743万9000トン(2016)で、ほとんど全世界で栽培されるが、なかでも中国、イタリア、アメリカ、フランス、スペインなどが多い。

[飯塚宗夫]

利用

果実にはブドウ糖のほか、酒石酸(しゅせきさん)、イノシット、ペントザン、タンニン質、ロイシンなどが含まれ、ビタミンB1やCも少量含まれる。生食のほか、干しぶどうとして利用し、ワイン、ジュース、ジャムなどに加工される。干しぶどうは、種なし品種のトムソン・シードレスがもっとも多く利用され、カリフォルニアで多く生産される。そのまま食べることもあるが、多くは菓子やワインの原料に用いられる。ワインは、ブドウの果汁をアルコール発酵させたもので、果皮が桃色か黄緑色に熟したブドウを原料としたものが白ワイン、紫黒色種を果皮をつけたまま原料としたものが赤ワインである。前者にはセミヨン、リースリングが、後者にはカベルネ・ソービニヨン、ピノ・ノワールなどが良質の材料として知られる。ジュースは、よく水洗いした果房から果粒をもぎ取り、それを絞ってつくる。ジュース1リットルに砂糖200グラムを入れ、82℃で110分加熱殺菌し冷蔵するとなおよい。ジャムは、果実1.5キログラムを10分煮たものを、5ミリメートルの粗い布で裏漉(うらご)しし、さらに10分煮て裏漉しする。これを2、3回繰り返し、最後に砂糖1キログラムを加えて煮つめるとできあがる。

 茎は粘り強いので杖(つえ)によく、また飾り柱にもする。ギリシア、トルコ、インドその他ではヨーロッパ系ブドウの若芽、若葉を蔬菜(そさい)として利用する。

[飯塚宗夫]


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食の医学館 「ブドウ」の解説

ブドウ

《栄養と働き》


 ブドウは5000年以上前にカスピ海の南側で栽培がはじまったといわれる、世界最古のくだものです。日本でも平安末期にはすでに栽培されていました。現在は世界中でもっとも多く栽培されている果実で、総生産量は約1600万t、その8割はワインに加工されています。
〈皮は血栓ができるのを防ぎ、種は悪玉コレステロールを減らす〉
○栄養成分としての働き
 ブドウは糖質が多く、ブドウ糖と果糖がそれぞれ半分を占めています。糖質はブドウ糖にかわって、はじめてエネルギーとして活用されます。果糖もブドウ糖に分解されやすく、しかも甘みがもっとも強い糖です。くだもののなかで、100gあたりのブドウ糖と果糖の含有量がいちばん多いのがブドウです。このことから、ブドウが即効性のある、すぐれたエネルギー源となり、疲労回復に抜群の効果をもたらすわけです。
 ブドウには酒石酸(しゅせきさん)などの有機酸も含まれています。有機酸がコレステロール値を下げることは知られていますが、酒石酸は結腸(けっちょう)にまで達し、腸内を弱酸性にするので、結腸がんを防ぐと考えられています。
 ブドウの皮や種子には抗酸化物質や血栓(けっせん)ができるのを防ぐポリフェノールが含まれ、脳卒中(のうそっちゅう)や心臓病予防に役立ちます。赤ワインが体にいいのは、このためです。また、レスベラトロールという強い発がん抑制作用のある物質が含まれており、とくにデラウェア種に多いとのことです。渋みのもとのタンニンには、ウイルスを殺す作用があると考えられています。
 種から絞った油にはリノール酸とオレイン酸が含まれ、血中の悪玉コレステロールを減らして動脈硬化を防ぎます。
○漢方的な働き
 ブドウは気力を補い、血行をよくし、尿の出をよくするくだもので、肝機能、腎機能(じんきのう)を高め、むくみを解消するとされています。また根や蔓(つる)は、筋肉の痛みや吐(は)き気(け)を治すのに用いられています。

《調理のポイント》


 日本では生産量の9割が生食用です。選ぶときは皮に張りがあって色が濃く、白い粉をふいているものを。ブドウは枝に近い側がもっとも甘いので、味見をする場合は房の先端を食べて判断します。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「ブドウ」の解説

ブドウ

 [Vitis spp.].クロウメモドキ目ブドウ科ブドウ属のつる性落葉常緑樹.果実を生食,ブドウ酒の醸造などに用いる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のブドウの言及

【つる植物(蔓植物)】より

…一般用語としてはvine。通常の植物のように直立できず,他物によりかかって生育する植物。…

【生命の樹】より

…古代西アジアの乾燥地帯では慈雨の恵みを願うところから,天空の泉に不死の生命を授ける聖なる樹木があるという信仰を持った。イランではハオマと呼ばれたが,これはブドウだとされる。聖樹は多く聖獣や女神を伴った形で装飾文様に使われる。…

【ブドウ酒(葡萄酒)】より

…ブドウの果実を原料として,発酵させてつくるアルコール性飲料。英語のワインをはじめ,フランス語のバンvin,ドイツ語のワインWeinなどは,みなラテン語のウィヌムvinumを語源とする。…

【文様】より

… 一方,各地で宗教が発達すると,その信仰の対象や内容を表示するため,特有の図文が図像的意味をもつものとみなされ,教団は教義にもとづく儀軌(ぎき)をきびしく規定するようになった。たとえば,西洋中世のキリスト教の場合,十字架や魚,ブドウの樹などはイエス・キリスト,バラは聖堂のばら窓にいたるまで聖母マリア,ユニコーンは処女,糸杉は死,シュロ(実はナツメヤシ)は復活を意味する象徴とみなされていた。また仏教では,仏像の出現以前,インドの古代初期に,仏陀は象徴的図文によってあらわされていた。…

※「ブドウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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