化学辞典 第2版 「フッ素」の解説
フッ素
フッソ
fluorine
F.原子番号9の元素.電子配置[He]2s22p5の周期表17族非金属元素.原子量18.9984032(5).ハロゲン元素の一つ.安定核種が質量数19の同位体のみの単核種元素.質量数14~31の放射性同位体がある.中世から冶金に使われる融剤として知られていた蛍石fluorspar(ドイツ語名Flußspat)から,C.F. Sheele(シェーレ)が1771年に酸を得て,Flußspatsäure(fluorspar酸)とよび,成分にフッ素元素を認めた.1886年フランスのF-F-H. Moissan(モアッサン)がフッ化カリウム-フッ化水素酸溶液の電気分解によってはじめて分離に成功した.その間,J.L. Gay-Lussac(ゲイ-リュサック),A.L. Lavoisier(ラボアジエ),H. Davy(デイビー)ほか,多くの化学者が分離を試み,フッ素傷害で寿命を縮めたケースも多い.元素名は,ラテン語の“流れる”fluereからついた蛍石のラテン語名fluoresをもとにDavyが提案した.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,弗律亜里涅(フリュヲリネ)としている.
鉱物蛍石CaF2,氷晶石Na3AlF6などが資源である.工業的にはHFとKFとの混合融解液の電解により製造.常温では二分子原子 F2 の淡黄色,特異臭のある気体.密度1.696 g dm-3(気体,0 ℃).融点-219.62 ℃,沸点-188.14 ℃.臨界温度144.3 K(-128.85 ℃).臨界圧力5.215 MPa.第一イオン化エネルギー17.422 eV.気体分子のF-F0.1418 nm.電気陰性度4.0ですべての元素中最大.ほかのハロゲンとは異なり,-1以外の酸化数はとらない.F- のイオン半径は0.133 nm で,もっとも小さい陰イオンである.また F- を含む化合物は水素結合をつくりやすい.フッ素はもっとも反応性に富む元素で,知られている酸化剤のなかでもっとも強い酸化力をもつ.純粋なフッ素は水素とほとんど反応しないが,不純物があったり,高温になると爆発的に反応し,1:1のH2-F2炎では4000 ℃ になる.無定形二酸化ケイ素には火を発して作用して,四フッ化ケイ素と酸素を生じ,水に作用するとフッ化水素,オゾン,酸素,過酸化水素,および二フッ化酸素を生じる.化学作用はきわめて強く,ほとんどの元素と反応する.一般に,金属とは常温または少し温度を上げると反応し,金および白金とも500 ℃ 以上では反応する.Ni,Al,Cuとは表面にフッ化物の膜をつくって侵されにくい.多くの金属や非金属と高原子価のフッ化物をつくる(例:MoF6,WF6,UF6).高原子価の遷移元素のフッ化物は分子性で揮発しやすい.ほかのハロゲン化物と異なりAgFやTlFは水に可溶,Li,アルカリ土類金属,ランタノイド,アクチノイドのフッ化物は水に不溶.希ガスKr,Xe,Rnとも化合物をつくる(例:KrF2,XeF2,XeF6,RnF2).
核燃料製造用の六フッ化ウランの製造,また絶縁体としての六フッ化硫黄の製造に多く用いられ,フッ素化剤として各種フッ化物ClF3,BrF3,IF6の製造に用いられる.フッ素樹脂,防腐剤,殺虫剤,冷媒,ガラスの加工など多方面に用いられる.HFは有毒で取り扱いには注意が必要である.「弗素,弗化水素及び弗化珪素」は大気汚染防止法有害物質.「フッ化水素及びその化合物」は水道法水質基準0.8 mg/L 以下.水質汚濁防止法排水基準0.8 mg/L 以下.土壌汚染対策法第二種特定有害物質で土壌含有量基準4 g/kg 以下.「弗素及びその水溶性無機化合物」は労働安全衛生法の名称等を通知すべき危険物及び有害物質指定.フッ素は水道法上,0.8 ppm 以下であれば含まれていても差し支えないとされている.[CAS 7782-41-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報