ハイキュウチュウ

改訂新版 世界大百科事典 「ハイキュウチュウ」の意味・わかりやすい解説

ハイキュウチュウ (肺吸虫)
lung fluke

扁形動物吸虫綱肺吸虫科Paragonimidaeに属する寄生虫総称肺臓ジストマともいう。世界中で約30種が記載されているが,このうちヒトに寄生して肺吸虫症の原因となるのは6種である。日本では従来ウェステルマンハイキュウチュウParagonimus westermaniiのみがヒトに寄生するとされていたが,1974年以降イタチ,テンなど野生動物の寄生虫と考えられていたミヤザキ(宮崎)ハイキュウチュウP.miyazakiiの人体感染例も知られるようになった。そのほか動物寄生種として,オオヒラ(大平)ハイキュウチュウP.ohirai,コガタオオヒラ(小型大平)ハイキュウチュウP.iloktsuenensisなどが日本に分布する。

 ウェステルマンハイキュウチュウの成虫はコーヒー豆状で,腹面は扁平,背面は膨隆しており,体長12mm,体幅7mm,厚さ5mm前後である。第1中間宿主カワニナ,第2中間宿主はサワガニモクズガニ,アメリカザリガニなどで,ヒトがこれらのカニを生や塩漬で食べると,その体内のメタケルカリアも摂取されて感染する。虫体は感染後3週目ころから肺に侵入し,虫囊を形成して8~10週で成虫になる。結核に類似した症状や病像を呈する。流行地では脳に迷入して,失明てんかんの原因となることもある(脳肺吸虫症)。卵は喀痰や,のみ下されて糞便とともに外界に出る。ミヤザキハイキュウチュウの第1中間宿主はアキヨシホラアナミジンニナ,第2中間宿主はサワガニであるが,ヒトが感染した場合,虫体は胸腔に達した後も虫囊を形成せず胸腔内を移動するものとみられ,気胸,胸水貯留,好酸球増加など,ウェステルマン肺吸虫症とはやや異なった病像を呈する。予防としては,第2中間宿主である淡水産カニ類の生食などの禁止が第1である。治療には,ビチオノール(商品名ビチン)やプラジクァンテル(商品名ビルトリサイド)が有効である。
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百科事典マイペディア 「ハイキュウチュウ」の意味・わかりやすい解説

ハイキュウチュウ

肺臓ジストマとも。長さ1cm内外のキュウチュウ類に属する寄生虫で肺に寄生する。東南アジアに分布して,日本でも山間の清流地に流行地がある。第1中間宿主はカワニナ,第2中間宿主はモクズガニなどの淡水産カニ類で,これらのカニを生食すると感染する。自然気胸血痰主徴で,肺結核と誤診されることがある。治療剤はビチオノールなど。
→関連項目寄生虫モクズガニ

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