ジカルバ-closo-ドデカボラン(読み)ジカルバクロソドデカボラン

化学辞典 第2版 の解説

ジカルバ-closo-ドデカボラン
ジカルバクロソドデカボラン
dicarba-closo-dodecaborane

C2B10H12(144.23).三角正二十面体のcloso-型ボランの2個のB原子をC原子に置換したカルバボランの代表的化合物.単にカルバボランとよばれることもある.2個のC原子の置換位置から1,2-,1,7-,1,12-置換体の3種類がある.1,2-置換体は,ベンゼン中で(C2H5)2SまたはCH3CNなどの共存下で,デカボラン(14)とアセチレンとを反応させると生成する.なお,アセチレンのかわりにR-C≡C-R′を反応させると,C原子にR,R′(炭化水素基)が結合したものが得られる.1,7-置換体は,1,2-置換体を470 ℃,数時間の加熱(または600 ℃,30 s の加熱)で得られる.1,12-置換体は,1,7-置換体を700 ℃ に短時間加熱すると得られる.図のようにそれぞれ(1,2-),(1,7-),(1,12-)の位置にC原子が入っている.たとえば,1,2-置換体では,B-B約1.77 Å,B-C約1.72 Å,C-C約1.65 Å.いずれも無色の結晶.ベンゼンやエタノールに可溶.融点320 ℃(1,2-),273 ℃(1,7-),261 ℃(1,12-).反応の特徴として次の四つがあげられる.
(1)C原子に結合したH原子は求核置換反応を起こす.たとえば,BuLiではLi2C2B10H10になり,さらにLiをCO2で-COOH基に,RXで-Rにかえるなど,多くの種類の基を導入できる.
(2)B原子に結合したH原子は,電気陰性度が大きく,求電子試薬と反応し,たとえばハロゲンで,-Clなどにかえられる.
(3)このかご形構造は酸性には強いが,アルカリ性(たとえば,(C2H5)Oの(C2H5)OH溶液)では,一部のBHがはずれてnido-型のC2B9H12,C2B9H112-などとなる.これから出発して,各種のメタラカルバボランがつくられる.
(4)かご形の2個のC原子は,高温では,より離れた位置のほうが安定となるため,加熱すると(1,2-)→(1,7-)→(1,12-)の異性化が見られる.
各種のR,R′ C2B10H10,およびそれをSiR2Oなどでつないだ分子をもつものが各種つくられ,用途も広い.これらはおもにプラスチックエラストマー,油,および耐熱素材などとして利用される.[CAS 16872-09-6:1,2-置換体][CAS 16986-24-6:1,7-置換体][CAS 20644-12-6:1,12-置換体]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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