サヨリ(読み)さより(英語表記)halfbeak fish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サヨリ」の意味・わかりやすい解説

サヨリ
さより / 細魚

halfbeak fish
[学] Hyporhamphus sajori

硬骨魚綱ダツ目サヨリ科に属する海水魚。サヨリの語源は、沢に多く寄り集まるという説と、体が狭くて群集性があるという説とがある。ダツ科、サンマ科、トビウオ科に近縁である。古くはヨリト、ヨロト、ヨロツなどとよんだ。日本ではもっとも普通にみられる種で、日本各地(南西諸島、小笠原諸島を除く)および樺太(からふと)(サハリン)、朝鮮半島、黄海、台湾に分布する。下顎(かがく)がくちばし状に長く突き出る。背びれと臀(しり)びれは尾びれ近くに位置する。吻(ふん)の背面に鱗(うろこ)があり、尾びれの後縁は深く湾入しない、下顎は頭長より短いなどの特徴で、他種と区別できる。全長40センチメートルほどになる。

 沿岸域に生息し、河口、湖などにも入り込む。稚魚成魚水面上を跳びはねる習性があり、危険が迫ると数回にわたり、水面上へ飛び上がり、外敵から逃げる。この習性は近縁のダツにもあり、さらに発達してトビウオ類の滑空飛躍となったと考えられている。

 雌雄とも満1歳、体長20センチメートル前後で成熟しだす。産卵期は4~7月、最盛期は5、6月前後で、このころの水温は18~20℃である。藻場(もば)または流れ藻などのある所へ十数尾ずつ群れをつくって出現し、水面近く、ときには水面を覆う藻の上に体を横たえて産卵する。熟卵は球形で直径2.2ミリメートル、卵膜に数本の長い糸状物と、それから180度対した側に1本のやや太くて長い糸があり、これらでホンダワラアマモ流木の枝などに絡まる。受精した卵は、発生が進むにつれ、黄褐色から緑褐色に変わり、孵化(ふか)近くには暗緑色となる。孵化したばかりの仔魚(しぎょ)は全長8ミリメートル近くあり、活発に泳ぎ回る。孵化後10日目で12ミリメートルとなって下顎が伸び始め、25ミリメートルで変態は完了する。仔魚はプランクトンの小形甲殻類を食べ、その後はアマモ、甲殻類、水面に落下した昆虫などを食べる。5月ごろに生まれたものは、8月に14センチメートル、10月に18センチメートル、満1歳で25センチメートル、9月に30センチメートルになる。雄は1年または2年で、雌は2年で成熟する。寿命は満2歳である。

 刺網、延縄(はえなわ)、釣りによって漁獲される。岸辺や河口に集まったものを、アミ類やイワシ類のミンチを散布して魚群を集め、ゴカイやイソメ類のほか、エビのむき身の細片などを餌(えさ)にして釣る。近縁にクルメサヨリHyporhamphus intermediusがある。

[落合 明・尼岡邦夫]

 下あごの先の紅色の鮮やかなものほど新鮮である。脂質は少なく白身の淡泊な味で、よい香りをもつ高級魚。春から秋にかけてが美味。体が細長いうえ、身も比較的厚いので、三枚におろして用いる。腹が黒く、料理の見かけがよくないので、おろしたものは黒い部分をていねいにとる必要がある。料理には、長い身を巻いたり、結んだりして、吸い物の椀種(わんだね)、てんぷら、煮物などに用いる。刺身、酢の物は、身が細く長いので、通常、糸づくりにする。握りずし、押しずしの種にもなる。

[河野友美・大滝 緑]


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改訂新版 世界大百科事典 「サヨリ」の意味・わかりやすい解説

サヨリ
Hemiramphus sajori

ダツ目サヨリ科の海産魚。地方によりクチナガ,クスビ,スズ,サエロなどの名もある。近縁のサンマに似て背びれとしりびれが後方に対置するが,体が丸細く,下あごがくちばしとなって細長くのびるのが特徴である。このため漢字で細魚,または針魚と書き,英語ではhalf beakという。ただし,このくちばしが何の役に立つものかはよくわからない。体の背部は青緑色,腹部は白色で,下あごの先端が生きているときには赤い。全長40cmに達する。分布は広く日本各地,中国の東岸から台湾に及び,南日本に多い。本種は沿岸性で内湾や汽水域の表層を群泳するが,純淡水域には入らない。体の後半をくねらせて前進し,危険が迫ると空中に跳び出し,弧を描いて頭から水面に突っ込み,このジャンプを何度も繰り返す。4月中旬から8月中旬にかけての産卵期には,10~20尾ずつの群れをつくって浅い藻場に入り産卵行動を行う。卵は表面に細い粘着糸があり,これで海藻にからみつく。孵化(ふか)した仔魚(しぎよ)は7mmくらいで動物プランクトンを食べて育つ。下あごは全長2.5cmになると急にのび出すが,やがてのびは鈍化し,全長27cmで体長との比が安定する。寿命は2年余りらしい。肉は白身で春~秋に美味で,刺身,わん種,てんぷらなどにされる。小型の近縁種クルメサヨリは汽水~淡水域に生息する。サヨリ科は全世界で70種ほどが知られており,なかには,観賞魚のデルモゲニーdermogeny(全長約7cm。タイ,マレー半島,スンダ列島などに分布)のような卵胎生の種も含まれる。
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百科事典マイペディア 「サヨリ」の意味・わかりやすい解説

サヨリ

サヨリ科の魚。地方名ヨド,スズ,クスビなど。トビウオ,サンマに近縁。全長40cmに達する。下顎が非常に長く,先端はだいだい色をなすのが特徴。北海道〜中国東岸,台湾に分布する。沿岸性でしばしば汽水域にも入り,小群をなして表層を泳ぐ。4〜8月に粘着性の卵を産む。すし種,刺身,吸物などにされる。近縁種のクルメサヨリ(全長20cm)は汽水〜純淡水域にもすむ。クルメサヨリは準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サヨリ」の意味・わかりやすい解説

サヨリ
Hyporhamphus sajori

ダツ目サヨリ科の海水魚。高級食用魚。全長 40cm内外。体は細長く,側扁し,下顎が長く剣状に突き出ている。体の上面は青緑色,下面は白色。背鰭,尻鰭とも体の後方,尾鰭近くにある。沿岸の表層にすむ。春から夏にかけて海藻に産卵する。日本近海,朝鮮半島,黄海に分布する。

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栄養・生化学辞典 「サヨリ」の解説

サヨリ

 [Hemiramphus sajori],[Hypohamphus sajori].ダツ目サヨリ科の近海の魚で高級魚とされる.約40cmになる.

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世界大百科事典(旧版)内のサヨリの言及

【サンマ】より

…秋の味覚を代表する魚の一つで,秋刀魚の字を当てる。分類上はダツ,サヨリ,トビウオなどの仲間である。体は側扁して細長く,下あごが上あごよりわずかに長い。…

※「サヨリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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