カンピロバクター食中毒(読み)カンピロバクターしょくちゅうどく(英語表記)Campylobacter food poisoning

六訂版 家庭医学大全科 「カンピロバクター食中毒」の解説

カンピロバクター食中毒
カンピロバクターしょくちゅうどく
Campylobacter food poisoning
(食中毒)

どんな食中毒か

 代表的な細菌性食中毒で、原因となる病原体はカンピロバクター・ジェジュニ(まれにカンピロバクター・コリ)です。

 主な原因食品は、生あるいは加熱があまりなされていない鶏肉(鶏刺し、タタキなど)、加熱不十分な鶏肉(バーベキュー、鶏鍋、焼き鳥など)、あるいは鶏肉から調理過程の不備で二次汚染された食品などです。また、牛レバーの生食が原因になった食中毒事例や、井戸水湧水、簡易水道水など消毒不十分な飲用水による感染事例もあります。

症状の現れ方

 潜伏時間は1~7日(平均2~3日)で、他の食中毒菌と比較して長いのが特徴です。主な症状は、下痢(水様便、まれに血便や粘液便)、腹痛発熱(37.5~39.5℃が多く、40℃以上の高熱はまれ)です。このほか、頭痛、悪寒、倦怠感(けんたいかん)、筋肉痛などが現れることもあり、初期症状はかぜと間違われることもあります。2~5日程度で回復しますが、時に長引いたり、ギラン・バレー症候群やフィッシャー症候群を起こすことがあります。

検査と診断

 確定診断は、便の細菌検査によるカンピロバクターの検出で、抗菌薬投与前に便の検査を行うことが重要です。

治療の方法

 自然軽快することが多く、輸液や食事療法で大部分は治りますが、場合によっては適切な化学療法が必要です。第一選択薬は、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、そしてホスホマイシンです。セフェム系抗生物質に対しては多くの菌株が自然耐性(たいせい)(薬が効かない)を示し、ニューキノロン系抗生物質に対しては耐性菌を誘導することがあり、耐性菌も増加しているので注意が必要です。

予防のために

 カンピロバクターは食材のなかでは鶏肉や牛レバーから最も高率に検出されるので、生あるいは加熱不十分の鶏肉や内臓肉を食べることはひかえるべきです。熱や乾燥に弱いので、調理器具は使用後によく洗浄し、熱湯消毒して乾燥させることが重要です。

 また、食肉からサラダなどへの二次汚染を防ぐために、生肉を扱う調理器具と調理後の料理を扱う器具は区別すること、生肉を扱ったあとは手指を十分に洗浄することも重要です。冷蔵庫内で、生の食肉と他の食品との接触を避けることも重要です。

 未殺菌の飲料水(野生動物の糞などで汚染される可能性のある井戸水、沢水など)を飲まないこと、小児ではイヌやネコなどの保菌動物への接触で感染することもあるので、便などに触らないなどの注意が必要です。

甲斐 明美

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「カンピロバクター食中毒」の解説

かんぴろばくたーしょくちゅうどく【カンピロバクター食中毒】

[どんな病気か]
 カンピロバクターは、イヌ、ブタ、ウシ、ニワトリなどに下痢(げり)をおこさせる細菌で、これらの家畜から感染して人にも下痢性の病気をおこします。
●多発する季節と年齢
 多発するのは5~6月ですが、年間を通じてみられます。集団発生のほかに家族内発生、散発的な発生もあります。子どもに多いのですが、おとなにもみられます。
[症状]
 潜伏期は3日前後で、急な発熱、腹痛、下痢がおこります。下痢の始まる数時間~2、3日前から、38~39℃の発熱をみますが、熱に気づかないこともあります。
 腹痛はかなり強く、へそのまわりが痛むことが多く、1日数回から10数回の水様または粘液(ねんえき)と血液のまじった下痢となります。
[治療]
 マクロライド系の抗生物質や化学療法薬のノルフサシリンが効きます。脱水症状や腹痛には、一般の下痢と同じ手当をします。
[予防]
 カンピロバクター菌は、病人の排泄物(はいせつぶつ)に含まれるほか、この菌を保有している家畜の糞便(ふんべん)中にも排泄される率が高いので、下痢をしている人やイヌ・ネコ、小鳥などのペットから感染しないように注意すべきです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

知恵蔵mini 「カンピロバクター食中毒」の解説

カンピロバクター食中毒

ニワトリやウシ、ブタなどの腸管内に生息するカンピロバクター菌による食中毒。生やそれに近い状態の食肉から人に経口感染する。潜伏期間は2〜7日間で、発症後は下痢や腹痛、発熱などが起こる。その後まれに、手足の麻痺を起こすギラン・バレー症候群を発症することもある。カンピロバクター菌は家畜にとっては病原菌ではなく、東京都の調査では流通している鶏肉の4割から6割に付着しているとされる。食肉を十分に加熱し、調理器具を清潔に保つことで予防することができるが、2000年代以降の生食ブームで鶏肉や牛レバーなどを生食し、発症するケースもある。

(2019-7-11)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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