アベドン(読み)あべどん(英語表記)Richard Avedon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アベドン」の意味・わかりやすい解説

アベドン
あべどん
Richard Avedon
(1923―2004)

アメリカの写真家。おもにファッションポートレートを手がけ、商業写真の分野で国際的に活躍。ニューヨークに生まれる。少年期より詩と写真に非凡な才能を示したという。第二次世界大戦後、ニューヨークの公立学校を経てコロンビア大学に学び、在学中の21歳からファッション写真界に進み、そこで著名なアート・ディレクター、アレクセイ・ブロードビッチAlexey Brodovitch(1898―1971)に出会う。彼の推挙で『ハーパーズ・バザー』誌の専属スタッフとなり高い評価を受け、続いて『ライフ』や『ボーグ』でも活躍、1950年代にはいち早く写真家として不動の地位を獲得した。彼の写真表現は、優雅さの典型を雄弁に語る美学をもつのみならず、豊かな人間性に根ざした鋭い人間観察を介して、普遍的に通用する人間味を巧みに描き上げる。代表作でもある作品集『オブザベーションObservations(1959)や、作家ジェームズ・ボールドウィンとの共作『ナッシング・パーソナル』Nothing Personal(1964)などはその好例である。

[平木 収]

『Observations(1959, Simon & Schuster, New York)』『Richard Avedon, James BaldwinNothing personal(1964, Atheneum, New York)』

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改訂新版 世界大百科事典 「アベドン」の意味・わかりやすい解説

アベドン
Richard Avedon
生没年:1923-2004

アメリカの写真家。ニューヨーク生れ。高校卒業後,商務省写真部に所属。1945-65年《ハーパーズ・バザー》誌スタッフ写真家,66-75年《ボーグ》誌スタッフ写真家。第2次大戦後パリの街を舞台に映画のシーンのような物語性と動きに満ちたファッション写真で一躍スターとなる。50年代終りから,ファッションの背景を街からスタジオに移し,動きは残したがバックは白で消去する方向に行き,ついに動きも止めてしまう。白バックを背に人が立ちつくしている彼の肖像写真はこうして生まれる。そこには,一人の人間の肖像輪郭として残るが,その輪郭はモデルが何を着ているかではなく,何者であるかを語ってしまう肉体の輪郭である。こうして彼の写真はファッションを超える。写真集《オブザベーション》(1959),ルイジアナの精神病院ルポを含む《ナッシング・パーソナル》(1964),《ポートレーツ》(1976),《ザ・ファッション》(1978)がある。
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百科事典マイペディア 「アベドン」の意味・わかりやすい解説

アベドン

米国の写真家。ニューヨーク生れ。コロンビア大学で哲学を学んだ後,1944年よりブロドビッチのもとで写真を学ぶ。1946年ニューヨークに〈リチャード・アベドン・スタジオ〉を開く。1945年以降《ハーパーズ・バザー》誌を中心に,ドラマティックな演出を取り入れたファッション写真を発表。肖像写真家としても,背景を白で消去して被写体の存在を浮き彫りにする野心的な作品を残した。1966年アメリカ版《ボーグ》の専属写真家となる。代表的な写真集に《オブザベーション》(1959年),《ナッシング・パーソナル》(1964年),《ポートレーツ》(1976年),《自伝》(1993年)などがある。1957年映画《ファニー・フェイス》の映像顧問を務めたほか,1970年に出版されたラルティーグの写真集の監修も手がけている。
→関連項目ムンカッチ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アベドン」の意味・わかりやすい解説

アベドン
Avedon, Richard

[生]1923.5.15. ニューヨーク,ニューヨーク
[没]2004.10.1. テキサス,サンアントニオ
アメリカのファッションおよび肖像写真家。 1945年から 1965年までより有力ファッション誌『ハーパーズ・バザー』に常時作品を掲載,その後『ヴォーグ』,『ニューヨーカー』と活躍の舞台を移した。ファッション写真では華麗でかつ劇的な効果を好む一方,肖像写真ではエッセー的な視点をもって現代アメリカの著名人の大半をカメラに収めた。代表的な写真集に『オブザーベーション』 (1959) ,『エビデンス-1944~1994』 (1994) などがある。また,1994年と 2002年にはアメリカの美術館で大回顧展が催された。

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