アケビ(読み)あけび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アケビ」の意味・わかりやすい解説

アケビ
あけび / 通草
木通
[学] Akebia quinata (Houtt.) Decne.

アケビ科(APG分類:アケビ科)の落葉藤本(とうほん)。葉は互生し掌状複葉、小葉は5枚。春、総状花序に淡紫色の花をつける。花序の先のほうには雄花、基部には雌花がつく。花被(かひ)は3枚。雄花には6本の肉質の雄しべと、退化した心皮があり、雌花には6~9枚の心皮があり、雄しべは退化して小さくなっている。心皮は熟すと大きな液果になる。液果は楕円(だえん)形ないし長楕円形で長さ6~8センチメートル、果柄の先に1個ないし数個つき淡紫色で、晩秋に熟すると肉質で厚い果壁は縦に裂ける。アケビの名は「実が開(あ)く」ということからきている。液果の中には黒い種子がたくさんある。種子を取り囲んでいる半透明の果肉は甘くて食用となる。本州、四国、九州の山野に普通にみられ、朝鮮、中国にも生育する。

 アケビにはネコンクソ、ゴザイカズラその他、地方ごとに多くの異名がある。アケビ属には数種があり、日本、朝鮮、中国、台湾に分布する。日本にはアケビ以外に、花が紫色で小葉は3枚のミツバアケビ、小葉は5枚で花がミツバアケビに似るゴヨウアケビA. pentaphylla Makinoが生育する。ミツバアケビの枝は細工物の材料となる。

[寺林 進 2019年9月17日]

薬用

漢方では本種とミツバアケビのつるになる茎を木通(もくつう)、通草(つうそう)と称して利尿鎮痛、通経剤として関節痛、浮腫(ふしゅ)、膀胱(ぼうこう)結石月経不順の治療に用いる。春に伸びたつるの先を30センチメートルほどとって山菜として用いるとたいへん美味であり、また、体にもよい。中国では木通はキダチウマノスズクサAristolochia manshuriensis Kom.(Hocquartia manshuriensis Nakai)(APG分類:ウマノスズクサ科)、クレマチス・アルマンディClematis armandii Franch.(APG分類:キンポウゲ科)、ミツバアケビをさすことが多く、通草はカミヤツデTetrapanax papyrifer Koch(APG分類:ウコギ科)の茎の髄をさすが、いずれも効用は同じである。

[長沢元夫 2019年9月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「アケビ」の意味・わかりやすい解説

アケビ
akebi
five-leaved akebia
Akebia quinata (Houtt.) Decne.

山野に普通な,大きな果実をつけるアケビ科の落葉つる性木本。ゴザイカズラ,ネコンクソ,モクトンなど地方ごとに多くの異名がある。

 雌雄同株。葉は互生し,掌状複葉。小葉は5枚で楕円形,全縁。春たれさがった総状花序に淡紫色の花をつける。雌花は雄花に比べて一段と大きい。花被は3枚,雄花では6本の肉質のおしべと6本の退化しためしべがある。雌花では退化したおしべと6~9本のめしべがある。果実は大きく成熟し,裂開する。アケビという名は実が開くところからきている。半透明の果肉は甘くて,食用になる。本州,四国,九州,朝鮮半島,中国大陸に分布し,北アメリカ東部には帰化している。

 アルカロイドは含まないが,漢方で木通(もくつう),通草(つうそう)とよばれる木部は,利尿剤,鎮痛剤として用いられる。乾燥した果実も卒中の予防薬として用いられる。若葉を塩漬にして食べる地方もある。

 日本にはほかに,小葉が3枚のミツバアケビA.trifoliata,およびアケビとミツバアケビの中間的な形質をもつゴヨウアケビA.pentaphyllaが分布している。ミツバアケビのつるは,籠や玩具細工の材料となる。信州の鳩車(はとぐるま)は有名。

メギ科,ツヅラフジ科に近縁な双子葉植物離弁花類の科。デカイスネア1属を除いてすべて,つる性木本。葉もデカイスネア属を除いてすべて掌状複葉。托葉はない。花は単性で雌雄同株。果実はみな大きく熟す。東アジアとチリ南部に特異な隔離分布をする。8属約30種がある。日本にはアケビ属のほかムベ属が分布している。
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食の医学館 「アケビ」の解説

アケビ

《栄養と働き&調理のポイント》


 アケビは山野に自生する半常緑樹の蔓性(つるせい)植物で、秋には果実が熟してぱっくりと縦に口を開けることから、「開け実」の意で名付けられました。熟した果実は甘く、アケビの仲間のムベが乾燥果実として平安時代の書物『延喜式(えんぎしき)』にも記載されています。
○栄養成分としての働き
 果実にはビタミンCのほか利尿効果のあるアケビンやカリウムなどが含まれており、アケビ酒は利尿のほか腎炎(じんえん)や膀胱炎(ぼうこうえん)に効果があるといわれています。
○漢方的な働き
 しかし、薬効成分が高いのは蔓性木部で、細切りし乾燥させたものを漢方で「木通(もくつう)」と呼び、生薬として用いられています。「木通」にはアケビアサポニン、カリウム塩が含まれ、これを煎(せん)じて飲むと利尿、消炎、腎炎、膀胱炎、むくみ、淋病(りんびょう)に効果があるといわれています。
○注意すべきこと
 中国で「木通」として用いられることもある「関木通」は、キダチウマノスズクサを原料とし、これには腎障害を引き起こすアリストロキア酸が含まれています。尿にたんぱくが検出されるほか、尿酸やリンが排出されるのが特徴的な症状です。日本で承認許可されているものは安心です。
 日本の市場には流通していませんが、個人輸入などで漢方薬を使っている方は注意が必要です。

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百科事典マイペディア 「アケビ」の意味・わかりやすい解説

アケビ

アケビ科の落葉性の木性つる植物。本州〜九州,東アジアに分布,山野にはえる。葉は柄が長く,掌状複葉で5個の長楕円形の小葉からなる。4〜5月に,総状花序に淡紫色の花がたれ下がって咲く。花弁状の3個の萼片があり,花序の先の方に小型の雄花,基部に大型の雌花がつく。花弁はない。果実は長楕円形で長さ7〜10cm,果皮は紫色を帯び,果肉とともに食用,木部は薬用となる。近縁のミツバアケビの葉は波形の鋸歯(きょし)がある卵形の3個の小葉からなる。つるでアケビ細工を作り,若芽,果実を食べる。ゴヨウアケビは小葉5個,波形の鋸歯がある。
→関連項目繊維作物ムベ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アケビ」の意味・わかりやすい解説

アケビ
Akebia quinata

アケビ科のつる性の落葉低木で,山野に普通に生える。葉は5小葉から成る掌状複葉で長い葉柄があり,小葉は長楕円形で先端はへこむ。4月頃,垂れ下がった総状花序をつけ,花には淡紫色の萼が3枚あり花弁を欠く。雌雄異花で,雄花は小型で6本のおしべと退化しためしべがある。雌花は大きく短円柱形の3~6個の心皮がある。果実は楕円形で長さ 6cmぐらいの半月形の液果となり,縦に裂けて黒色の種子を含んだ白色の果肉が出る。果肉は甘くて食用になる。若芽を食用とし,またつるで籠などのあけび細工をつくる。

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栄養・生化学辞典 「アケビ」の解説

アケビ

 [Akebia quinata], [A. trifoliata].山谷に自生するキンポウゲ目アケビ科アケビ属のつる性落葉低木.果実は甘く,食用にする.また新芽も食用になる.

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