(読み)わら

精選版 日本国語大辞典 「藁」の意味・読み・例文・類語

わら【藁】

〘名〙
① 稲・麦などの茎をほしたもの。
正倉院文書‐天平一一年(739)正月二八日・写経司解「藁卅囲 直銭九十文〈別三文〉右、塗廝壁料」
今昔(1120頃か)一四「家主、悲て牛の辺に寄て、藁の座を敷て云く」
② (①を産褥(さんじょく)に敷いたところから) 産褥。また、そこにいる赤ん坊
③ かくしている短所・欠点。また、失敗。
※雑俳・替狂言(1702)「傍輩が蓋してくれし恋のわら」
④ (「わら(藁)を焚(た)く」の略から) けなすこと。悪口を言うこと。

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デジタル大辞泉 「藁」の意味・読み・例文・類語

わら【×藁】

などの茎を干したもの。
[類語]麦藁

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「藁」の意味・わかりやすい解説


わら

成熟した稲や麦の茎を乾かしたもので、稲藁、麦藁という。稲藁の成分はセルロース約36%、リグニン20%、ペントザン22%、粗タンパク質6%、灰分13%などである。これらは栽培作物としての稲、麦の副産物で、日本原産ではないが、古くから日本人の日常生活のなかでさまざまな形で利用されてきた。とくに稲藁は麦藁に比べて利用度が高く、各生活分野に使われており、日本の生活文化は稲藁の利用で特徴づけられるといっても過言ではない。日本での麦作の歴史は不明な点が多く、麦藁利用についての起源や歴史は解明されてない。一方稲藁は、縄文時代終末期に稲作が受容され、弥生(やよい)時代に定着・発展したのち、弥生終末期から古墳時代にかけて鉄製手鎌(てがま)が収穫具として使われ始め、刈り取りの条件が形成されることによって、多面的利用が可能となったと考えられる。すでにこれ以前から麻、シナ、コウゾなど自然繊維を加工・編織する技術が行われており、稲藁の利用はこうした技術を基盤に展開したといえよう。福井県鳥浜貝塚からは縄文時代前期の縄が出土しており、また日本の石器時代には縄文の施文体からわかるように目覚ましく縄が発達していたのである。

[小川直之]

稲藁の利用

利用法には、加工せずにそのまま用いる方法と、加工・編織する方法とがある。前者は燃料、飼料、牛馬舎や作物の根元への敷き藁、堆肥(たいひ)(積み肥)などへの利用であり、後者は藁細工、藁仕事での利用である。細かく刻んで土壁のツタ(苆(すさ))にするなどの利用法もある。稲藁は通常、米一石(約150キログラム)について120キログラム程度とれるといわれ、利用上ではこのうちの3割が藁細工に用いられた。藁細工による利用は世界の稲作地帯のなかでは日本がもっとも進んでいる。これは、稲藁はもろく風化しやすいが、軟質で加工しやすく、保温力に富み、稲作によって豊富に得られ、また日本型の品種は加工・編織に適すからである。農家での藁細工は原則として自家用の品をつくった。暮れまでに稲の収穫・収納を済ませ、正月の仕事始めから冬場の家内仕事としてこれを行ったのである。現在、各家庭では藁製品を日用品に使うことはほとんどないが、正月の仕事始めの儀礼にナイゾメなどといって縄を一房(いちぼう)なって年神様に供えたり、藁の打ち初(ぞ)めをすることが広く行われていた。藁細工が重要な仕事であったのがよくわかろう。

 冬の農閑期の藁細工では縄や草履(ぞうり)、草鞋(わらじ)、足半(あしなか)、背中当て、蓑(みの)、莚(むしろ)、俵、桟俵などがつくられた。おもに男の仕事で、近隣の若者がムロをつくり、集まって細工をしたり、藁打ちを共同で行う場合もあった。藁細工では、まず稲藁のスベ(下葉)をすぐりとり、先端のミゴを抜いて藁をこしらえ、さらに莚や俵など一部のものを除いては、藁打ち石の上で杵(きね)や槌(つち)で打ちこなして柔らかくして使うのが普通である。細工用の藁は早稲(わせ)種の水稲で乾田でつくったものがよいとされている。糯(もち)種の藁は粳(うるち)種より長く、しかも柔らかいので糯藁もよく使われた。日本の藁製品には先述のもののほかに、服飾品では編笠(あみがさ)、蓑帽子、藁手袋、脛巾(はばき)、踏俵、深沓(ふかぐつ)、藁沓、爪掛(つまがけ)、運搬具や容器では負縄(おいなわ)、縄袋、畚(もっこ)、扶畚(ふご)、叺(かます)、苞(つと)、生産用具では藁網、藁綱といった漁具養蚕のマブシ、菰(こも)など、室内用具では藁ぶとん、敷莚、畳床、円座、えじこ、縄暖簾(のれん)、箒(ほうき)、台所用具では飯櫃(めしびつ)入れ、弁当入れ、釜敷(かましき)、鍋(なべ)つかみ、たわし、刷毛(はけ)、ベンケイなどがある。牛馬の沓も稲藁でつくり、さらに注連縄(しめなわ)、宝船供物の容器である藁苞、ヤス、藁皿、七夕(たなばた)の藁馬、虫送りや道祖神の藁人形もある。これらのうち漁網・漁綱のようにじょうぶにつくらなければならないものや、細かい細工、外観を美しくつくるものにはミゴを選んで用いていた。

[小川直之]

麦藁の利用

稲藁に比べて用途は狭いが、肥料、敷物、屋根材、玩具(がんぐ)、帽子、菰、俵などに利用されている。現在ではほとんど使われないが、大麦、裸麦、小麦では藁の性質が多少異なっているので用途も分かれている。たとえば、小麦は他より強(こわ)いので藁屋根の材料となるが、腐りにくいので堆肥(たいひ)には入れない。麦稈真田(ばっかんさなだ)のように3種の麦藁を使う場合もある。麦藁帽子は麦稈真田を縫い合わせてつくったものである。

[小川直之]

西洋の民俗

麦藁は家畜の餌(えさ)、家畜小屋の敷き藁、堆肥になる。また果樹を包み、籠(かご)、鉢、縄、蜜蜂(みつばち)の巣箱、ベッドの床、帽子、テーブルセンターをつくるなど、幅広い用途がある。もう藁屋根はほとんどみられないが、北ドイツのジュルト島などにはいまでも藁屋根があり、夏に葺(ふ)き替えをする。傷んだ箇所に苔(こけ)を詰める地方もあった。藁灰は肥料になるほか、恋の成就にも利用される。藁の呪力(じゅりょく)が信じられたからである。南チロール(北イタリア)では魔女、イギリスでは妖精(ようせい)が藁に変身するという。東プロイセン(現在ポーランドの一部)では死者を霊柩車(れいきゅうしゃ)の藁の上に安置し、その藁を墓地入口か村境に捨て、死霊の力が他の者に及ばないようにした。オーストリアのバート・ミッテルンドルフでは、聖ニコラスの日(12月6日)の前夜、全身を藁で包んだ男たちが聖ニコラスの行列の先頭で鞭(むち)を鳴らして進むなど、藁は各地の年中行事で欠かせない。

[飯豊道男]

『宮本馨太郎著『民具入門』(1969・慶友社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「藁」の意味・わかりやすい解説

藁 (わら)
straw

イネ,麦などの穀用作物の結実収穫後の茎(稈(かん)),葉を乾燥したものを,一般にわらと呼んでいる。日本では,米の生産と関連して,稲わらの利用が生活と深く結びつき,わら工品として,かます,むしろ,俵,縄,履物(わらじ,ぞうり,わらぐつ),畳床などの材料に用いられ,また飼料,肥料,敷きわら,燃料などにも利用されてきた。現在の稲わらの利用をみると,肥料として切断わらの田畑へのすき込みがもっとも多く,ついで堆肥用,畑の敷きわら用で,稲わら総産出量の過半数が農業用として使われている。また,畜産用として,飼料,畜舎の敷きわらにも用いられる。飼料としての稲わらの化学成分の含量は,水分13.0%,タンパク質4.3%,脂肪1.7%,可溶性無窒素物37.3%,繊維28.9%,灰分14.8%で,ウシの消化率は,タンパク質26%,脂肪40%,可溶性無窒素物47%,繊維61%となっている。栄養価は草類に比べ劣るので,家畜に与える場合は,タンパク質,カルシウム,リン,ビタミンAなどを十分補給する必要がある。なお,飼料として,コムギ,オオムギ,トウモロコシの稈も利用されている。わら工品としては,稲わら総産出量の数%が,かます,むしろ,縄,畳床の材料として利用され,東北・九州地方での生産が多い。かます,むしろ,荷造り縄にはJAS(日本農林規格)があり,これによると,かますは,稲わらを主原料として袋状に仕立てたもので,穀用,肥料用,塩用,鉱石用,一般用に分類されている。また,むしろは,稲わらを緯(よこ)とし,縄を経(たて)として製織したもので,敷用,包装用に分類されている。なお,米の包装には,俵は現在用いられず,紙袋,麻袋,樹脂袋になっている。また,わら工品では,麦わら製品として,オオムギ(皮麦,裸麦),コムギのわらを漂白し,割り開いたものを真田(さなだ)編みとした麦稈真田(ばつかんさなだ)がある。
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