(読み)たたら

改訂新版 世界大百科事典 「鑪」の意味・わかりやすい解説

鑪/踏鞴 (たたら)

日本古来の代表的な製鉄方法。粘土でつくられた高さの低い角形の炉で,木炭燃料として砂鉄を製錬する原始的なものであるが,日本刀の素材である玉鋼(たまはがね)はこの方法でつくられていた。炉の下方から風を送って木炭を燃焼させ,十分に温度を上げてから木炭と砂鉄を交互に層状に投入しながら,連続的に3昼夜ほど操業して砂鉄を還元する。操業を終えると炉全体をこわし,還元された鉄の塊を取り出す。これを〈けら(鉧)〉という。このけらをこぶし程度の大きさに砕き,その破面の様子などによって玉鋼をスラグやずく(銑鉄)などと選別する。たたらでは現代の高炉のようには温度が上がらず不純物も還元されないので,玉鋼は不純物の含有量がきわめて少ないうえに炭素量も日本刀の刃部とするのに適当な1%強程度で,純良な品質をもっている。このため日本刀の素材として現在でも珍重されている。たたら製鉄は,島根,広島などの中国地方で発達したが,明治以後は生産性の大きい高炉を用いる近代式製鉄方式の進歩に押されて衰微し,昭和の初めから第2次大戦中にかけてやや盛んに操業されたとはいえ,戦後はほとんど行われず,経験者は高齢となって生存者も減り,たたら製鉄は絶滅ともいえる状態になっていた。しかし,1969年に日本鉄鋼協会が研究の目的でたたら製鉄の復元に成功した。77年以降は日本美術刀剣保存協会が中心となって技術の保存と同時に,素材不足に悩んでいる刀鍛冶に玉鋼を継続的に供給し,日本刀の鍛錬技術をも保存するねらいで時折操業が行われている。
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たたら製鉄は初め採鉄などの適地を求め,露天で自然の通風を利用して銑鉄を得るという形で行われ,野だたらといわれたように移動性,漂泊性の強い集団であった。それがしだいに高殿と記される炉をもった作業施設がつくられ,定着するようになった。たたらを中心とする山内(さんない)にはたたら師鍛冶師炭焼きなどが住み,経営者との間に親方子方関係を結び山子(やまこ)として働いた。たたら師は鉱山関係者のなかでもとくに信仰伝承多く,かつ古いものが残されている。山内の職種には村下(むらげ),炭坂,炭焚,番子(ばんこ),手下(てご),大工,サゲなどがあったが,村下は古語であるムラギミの訛語とされ,たたら集団の長を意味した言葉とされている。たたら作業は送風と火の色の判断が重要で,砂鉄採取である鉄穴流し(かんなながし)を農民が行うほかは,すべてたたら師が行った。たたら師は守護神として金屋子神(かなやごがみ)をまつったが,この神はたたら技術の祖神ともされ,村下に技術を伝授したとか,たたら師の先祖をいっしょに連れて降臨したと伝えられている。たたら作業は危険で一瞬の判断ミスも許されない作業だけに,女や血の穢(けが)れはきびしく忌まれた。しかし,死の穢れだけは嫌われず,逆に死体や棺桶などを作業場にもち込んで効果をあげようとさえした。たたらは男によって営まれる死から生をうむ神聖な作業とされたのである。たたらでは火の色を長年見つづけるために片目をつぶす人が多く,また片足で吹子を踏んで送風する〈たたらを踏む〉姿などが,金工や鍛冶師の間でよく聞かれる片目片足伝承の背景にあるという見方もある。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「鑪」の解説


たたら

高殿(たたら)・(たかどの)とも。近世に発達し大正期まで操業した砂鉄を原料とする製鉄炉。また炉を中心とした作業場のこと。一時的な野だたらに対して永代鑪ともいう。鑪による木炭と砂鉄を用いる製鉄をたたら製鉄といい,日本独特の技術とされる。所有者(経営者)を鉄師(てつし)といい,操業者の集団をたたら師という。近世の鉄の9割以上が中国地方の生産で,うち銑(ずく)といわれる鋳鉄が9割以上,鋼(はがね)が1割以下だった。融点の低い赤目(あこめ)砂鉄を原料として一代(ひとよ)(1工程)4昼夜でなされる銑は,鍋や釜など鋳物の材料となり,また大鍛冶屋で加工して釘などの錬鉄となった。鋼は真砂(まさ)砂鉄を原料として一代3昼夜で生産された鉧(けら)を大場(おおどうば)で破砕して選別後製品となった。最上の玉鋼は日本刀の材料となり,その他も加工して刃物となった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「鑪」の解説


たたら

古式の砂鉄製錬場
古代以降,特に中国地方で発達し,明治中期まで日本の産鉄量の6割までを産出した。「踏ふいご」をさすこともある。

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